2022年度 木の日研修実施報告


シカという動物 ―ところかわればくらしも変わるー

 

【開催日時】 2023年2月2日(木)19:00~21:20

【開催場所】 リモート(Zoom)

【主  催】 森林インストラクター東京会 

【講  師】 小泉透先生

       (国立研究開発法人森林研究・整備機構 フェロー)

【スタッフ】 ニレの会(令和2年)

【参加者数】 60名

【報告者名】 濱田明彦

 

小泉透先生(持っているのは猟銃に装着するスコープと捕獲したシカの皮をなめして自作したカバー)
小泉透先生(持っているのは猟銃に装着するスコープと捕獲したシカの皮をなめして自作したカバー)

 

【内  容】

1.ニホンジカのニホンはどこだ

1) ニホンジカ

・学名はCervus nippon Temminck, 1836   

・ニホンジカの命名者はオランダ王立自然史博物館館長 コンラート ヤコブ テミンク(1778~1858)

・ニホンジカの標本提供者は フィリップ・フランツ・フォン・シーボルト(1796~1866)と思われる。

・日本を含め、ベトナムからロシア・沿海州に生息するシカはすべてニホンジカに分類される。

 

2.ところ変わればシカ変わる

1)シカの大きさ

・北に行くほど体は大きくなる。 

 

※ベルクマンの法則:恒温動物において熱放射率は体表に比例するため、寒冷地では体温をにがさないように体を大きくし、暑い場所では放熱しやすいように体を小さくする。

 


 

2)シカの体毛

・保護毛は皮膚を傷つけないため、綿毛は体温を保温する役目であるが、近年保護毛にも放射熱を抑える機能が

 あることが判明した。

 

3)シカの行動圏(ホームレンジ)

(1)シカの移動と定住

・積雪の多い地域では大きな移動をし、少ない地域では

 定住をする。

・どの地域にも移動タイプはあるが、北に行くほど移動

 タイプが多くなり、積雪の多い地域のシカは、

 越冬地に移動する。

 

 


 

(2)シカの移動調査方法

 

 ・ガス銃を利用し筋弛緩剤を打ち込みシカを生け捕り、

 シカにストレスが掛からないよう目隠し、脚を結束し、

 テレメトリーを装着する。

 放逐する際は拮抗剤を投与し開放する。

 以前のテレメトリーは電波の発信だけであったが、

 現在はGPSレシーバーが備わっており、首輪の位置が

 自動記録される。首輪は遠隔操作でシカから脱落させ

 ることができる。

 


 

4)シカの出産

・北に行くほど出産が遅い。

 房総‥5月中旬、兵庫・熊本‥5月中旬、富士山麓‥6月初旬、北海道‥6月中旬

 これはエサである樹木の葉が開いてから出産した方が、母親も十分に授乳ができ、子どもの成長も良く、

 冬の死亡率が低くなるからではないかと思われる。

 

5)シカの数の変動

・寒冷の知床半島のエゾジカは数量の大きな変動を繰り返す。

・エサの不足時は子どもとオスは弱く死ぬが、増加の中核を担うメス成獣は死ににくい。

・南のシカは激しい変動はなく、ほぼ一定の数量で推移する。 

 

6)恐るべし反芻動物

・シカの胃は4つの部屋からできており、第1胃で食べた植物を微生物で分解し、第2胃で消化しづらいものを押し戻し

 反芻させ、第3胃はひだでこし、第4胃で胃液を分泌して消化を行う。

・植生に応じて食性を変化させることができるため、食物メニューは1000種を超える。 

 

3.ところ変われどシカ変わらず

1)シカの繁殖

・10月に1頭のオスに対し複数のメスでハーレムを作り、約240日の妊娠期間を経て、6月頃メス1頭に対し

 1頭の子どもが生まれる。双子が生まれるのは稀である。

 

2)シカの寿命

・捕獲した約3万頭のシカを調査したところ、メスの最高齢が

 18才、オスが14才であった。

   

3)シカの分布と新たな問題点

・縄文時代は積雪量の多い地域を除いては全国に散らばって

 いたと考えられる。

・明治から昭和初期にかけてシカを乱獲したため、戦後は

 シカが絶滅寸前であった。1945年当時は全国の約10%

 であった。

・戦後60年間メスジカの捕獲を制限した結果、非常に増加し

 現在の分布は全国の60%まで拡大している。

・シカは反芻動物であるため、場合によっては毒のある植物

 まで幅広く食べることができ、植生がどんどん後退して

 いる。依って、森林が消失している場所も増え、生物多様性

 とともに防災上の問題ともなっている。

 


・環境省の発表によると2020年度末の本州以南のシカの

 個体数は中央値で218万頭。北海道は67万頭。

 誤差数を合わせると合計約300万頭のシカが日本に

 生息してる。 

・数は2014年度をピークに減少傾向にある。

 


 

2)海外の管理<イギリスのディアイニシアティブ(官民共同体)のホームページより>

・シカが多い場合は成獣メスを優先に短期間で数量を減らさなければならない。

・シカの数の安定化を考える時期はシカのインパクト(シカの影響)が低いか否かを指標にすると良い。

3)富士山麓(北西部)の現況

・シカの捕獲を徹底した結果2012年度と比較すると2018年に全域で密度の低下が確認できた。その結果、貧弱であった森林の林床の草本が回復してきた。試しに防護策を外した地域でも植生が豊かになってきた。

 


 

4)イエローストーン国立公園のオオカミ導入について

・アメリカ合衆国のイエローストーン国立公園で1995年に14頭、1996年に17頭導入したオオカミが、2000年時には177頭に増え、その結果、河畔林生も回復し、ビーバーの数も増加した。

  

5)認定鳥獣捕獲等事業者制度

・国はニホンジカとイノシシの生息数を10年後(令和5年度)までに半減することを目標とし、平成26年の鳥獣法改正

 により都道府県等による捕獲等事業を創設し、鳥獣の管理を強化していくこととした。

・今後は鳥獣の生息状況等のモニタリングや計画策定・評価等にも関与する日本型ワイルドライフマネージャーが育つ

 ことが望まれる。

 

5.まとめ

短期間でシカの数を減らす手法としてはメスの成獣を優先的に捕獲することである。生物多様性や森林の林床の復活を目標に官民一体となってシカの数を減少させ、安定するまで手を緩めてはいけない。安定してからは指標をインパクト(シカの影響)にし、毎年確認していくことが大切である。

また、捕獲したシカを有効に利用するために、シカ肉の流通・加工だけでなく、上手に捕獲(収穫)し、広く世間にジビエとして認知してもらう取り組みもとても重要だと思われる。

今後は鳥獣生息状況を把握し、常に自然のアンバランスを調整するワイルドライフマネージャーを育てる

こと。そのことも併せて周知し、制度を作り上げていくこともとても大切なことであると学習しました。


未来に繋ぐ植物標本

 

【開催日時】2022年12月1日(木)19:00~21:15

【開催場所】リモート(Zoom)

【主  催】森林インストラクター東京会

【講  師】加藤 英寿先生(東京都立大学理学研究科助教)

【スタッフ】ニレの会(令和2年)

【参加者数】53名

【報告者名】森 正

 

【標本とは?】

・標本とは「生物多様性の記録・証拠資料」として貴重なものであり、植物の場合は「腊葉(さくよう)標本」つまり一般的な用語で「押し葉」の形式が国際標準だが、他に木材(材鑑)や液浸標本・プレパラート標本もある。そのような植物標本を集めて、整理している植物標本館が世界中に3,000館以上、日本国内には約60館が知られている。

・東京都立大学の牧野標本館(MAK)もそのひとつであり、牧野富太郎博士の没後、ご遺族から東京都に寄贈された未整理標本(牧野標本)約40万枚をもとに1958年に設立された。整理済みの牧野標本をはじめ、牧野標本館のスタッフや関係者が収集したもの、他館との標本交換や寄贈により得られたものなど2022年3月末時点の整理済み標本数は、維管束植物約50万3千点を中心に、蘚苔・地衣類、藻類、菌類などを含め合計約57万点に及び、収蔵数では国内5番目である。

植物の標本は一般的な「押し葉」だけではありません。
植物の標本は一般的な「押し葉」だけではありません。

また、牧野標本館では所蔵標本のデジタル化を進めながらその一部をWebサイトで公開しており、誰でも閲覧が可能である。

※https://www.biol.se.tmu.ac.jp/herbarium/id-4.html

 

・標本を作製する理由(目的)は、

①    タイプ標本(命名のための基準となる標本)

②    植物の名前を調べる(同定する)

③    植物の特徴や変異を調べる

④    植物の成長や季節的な変化を知る

⑤    地域の自然環境の変化を記録する(歴史資料)

⑥    調査・研究の証拠資料

などがあり、それらはすべて生物多様性を記録し、証拠資料として残すために必要なものである。そして、このような標本を収蔵する標本館は生物多様性情報センターとしての役割を担っており、標本の収集・整理・保管・管理に加えて、国内外の標本館との情報交換や所蔵標本の貸し出しなどを行っている。

 

標本作成作業工程の「採集」~「プレス乾燥」の様子です。
標本作成作業工程の「採集」~「プレス乾燥」の様子です。
ヤマトグサとカコマハグマ。命名のための基準(タイプ)標本の例。
ヤマトグサとカコマハグマ。命名のための基準(タイプ)標本の例。

 

・植物標本を学術資料として残すためには、「いつ、どこで、だれが」採集したかが詳細に記入されている「標本ラベル」が添付されていることが必須である。植物標本の形状は、その植物の特徴がわかるように根や茎、葉、花、果実など、可能な限り様々な部位が含まれていることが望ましい。また、各部位の観察や計測が可能となるような「美しい」標本や、植物の「生き様」(繁殖様式など)が分かる標本の作成を目指すことを推奨している。

但し、「どこでどのような植物標本を作成するのか?」は採集者の目的次第であり、目の前にある植物の標本を作りたいという素朴な意思が優先するのは間違いないと思われる。

・標本を採集する時には、我々が観察会を実施する場合と同じように「所有権や法令を遵守する」、「その環境を荒らさない(その植物のみならず、周辺の様々な生きものへの影響を考慮する)」などの注意事項があることも教えられました。

 

【標本の作成方法】

・標本を作る基本的な作業であるプレス乾燥のやり方や、標本作成の対象とする植物の特徴に合わせたやり方なども教わりました。例えば、シダ植物は葉の表と裏(胞子が付いている面)が見えるようにするなど、標本を観察しやすく作成する工夫が必要です。

・新聞紙が思いの外役立つことには驚かされました(デジタル化の加速に伴い、いずれ新聞紙が消滅しかねないことを懸念)。

・一方で、標本対象の植物は希少なものだけ(一般的なものは必要ない)との認識は誤りで、身近なところに普通に生えているものでも、「それが、今、ここにある」という事実の証拠記録として重要なことだとも教えていただきました(自然環境は急速に変化しているので)。

 

標本を観察しやすく作成する工夫が必要で、そのためには植物の特徴に合わせたやり方があります。
標本を観察しやすく作成する工夫が必要で、そのためには植物の特徴に合わせたやり方があります。

 

【標本を作成する仲間との協力関係】

・また、植物標本を集めるには一部の専門家だけではなく、各地域で植物に興味を持っている多くの方々の力が必要で、そのような市民の方々との協力関係を構築していきたいと熱く語っておられたのも印象的でした。

・具体的な市民との連携による植物標本収集活動の例として、地域の自然緑地を保全・管理しているボランティア団体である世田谷区の「成城みつ池を育てる会」、多摩市和田の「なな山緑地の会」の二つの会との交流を紹介して頂きました。「成城みつ池を育てる会」とは2007年より連携を開始し、実際に会員の方が採集・作成された600点以上の維管束植物標本が牧野標本館に寄贈され、それらの標本情報に基づく「成城みつ池緑地植物誌」が2014年に編纂されるなど、市民活動が大いに寄与されていることが分かりました。また、「なな山緑地の会」とは2016年から連携し、「なな山緑地」に生育する維管束植物の標本約380点ほどを収録した「なな山緑地の植物標本」がブログで公開されているそうです。市民の力は偉大です。

・上記のような活動に代表されるように、色々な機会にふれ合い、自分で植物を採集して標本にすることは大いに歓迎されています。但し、その標本を実際に寄贈する際には、事前に標本館スタッフにご相談下さいとのこと。特に、標本ラベルの添付は必須で、標本とラベルは台紙に貼らず、新聞紙に挟んだ状態とすること(標本台紙は標本館独自の規格があるため)などの注意点を知って頂きたいとお聞きしました。

 

【ちょっと意外な「学術標本は芸術作品」】

・標本は作成者の意図(目的・視点)が入ったもので、「これが正しい」とか「標準的なもの」に縛られる必要はない。

・標本館に収蔵された後は、標本の価値は利用者に委ねられ、採集者の意図と無関係に利用されるものだと理解することが必要(標本は無限の可能性を秘めているということ)。

・学術標本は芸術作品と基本的に同様であり、自分なりの視点や目的を持って「標本」という作品を表現し、後世に残して欲しいと聞かされて、少し「標本」を見る目が変わった気がしました。

 

【最後に】

タイトルの「未来に繋ぐ」に込められた加藤先生の熱い思いを幾ばくかは理解できたと思います。

先人たちが残された過去の生物多様性の記録を無くすことなく、可能な限り残すことを基本として、今の植物の状況を未来に残す・伝えるためには何をすべきか?それは今生きている植物たちの標本を可能な限り残すことではないか?そうすれば、「未来に繋ぐ」ことができるし、そのことを最重要視されているのだと認識させられた講義でした。

そのように感じられたのは、「このような植物標本作成講座を積極的に開催しているのは、できるだけ多くの方と一緒に植物標本を作って残していきたいから」と仰っておられたことが強く印象に残ったからでした。

加藤先生には大変お忙しい中、FITの研修会のために打ち合わせなどの多くの時間を割いていただきました。また当日は、参加者からの数多くの質問(例えば、タイプ標本と学名の関係、保存方法による劣化や色あせの影響、DNA抽出の可能性、IT技術活用による標本情報の多様化、標本に寿命は?など)にも丁寧にご回答をいただき誠にありがとうございました。我々FITとしましても本日の研修を糧に今後の活動に役立てていく所存です。

 


 

【開催日時】2022年11月9日(水)19:00~21:30

【開催場所】リモート(Zoom)

【主  催】森林インストラクター東京会

【講  師】脇本和幸氏(FIT会員  平成28年)

【スタッフ】ニレの会(令和2年)

【参加者数】50名

【報告者名】柴田嘉子

 

ご自身の経験をもとに語りかける脇本講師
ご自身の経験をもとに語りかける脇本講師

 

【内  容】

 

日本学術会議2001年答申で出された8つある森林の多面的機能のうち、計測して数量化することでその価値を共通認識できる「様々な林産物を提供する」「地球環境を保全する」に焦点を当て、立木材積や林分材積、CO2吸収・固定量の求め方を学び、森の経済的評価方法についてお話いただきました。また、ブラジルやポルトガル、南アフリカ等、海外での植林の事例を写真で紹介していただきました。

 

1.木を測る単位について 

 木材の主な単位は、数量、容積、重量に分けることができる。更に容積は、容積(実)と容積(カサ)に、重量は、水分を含むか含まないか、炭素や二酸化炭素の重量の表記方法があり、それぞれ目的に応じた単位を使用する。

なお、数量は銘木などの貴重材や値段の安い杭材などに使用する。容積の単位の石は、今は使われないが少量のため立方に直すと価格が3.6倍となる。重量のBDTの計測方法は、ウッドチップのサンプルの乾燥前の重量を測り、24時間+1,2時間オーブンで乾燥させた重量を測り、水分の重量を測る。または水分測定器で測る。パルプ用ウッドチップを売る時はBDT、丸太を買う時は立方や層積立方、GMTなど単位が変わるので換算係数で公平性を担保するためにせめぎ合う。GMTはトラックに乗せた材を道路にある計測計でトラックごと測るが、材に水をかけてきて膨らまして重量を増したりすることもあった。

 

 

2.木や森の測り方

 

(1) 測定で使用する機器

   直径の測定は、①輪尺を使う。地上1.2m部分(胸の高さ=胸高直径)の幹の直径を測る。

北海道の胸高直径は1.3m部分。野帳に記録する係と2人で測っていく。②輪尺(デジタル式)は、スマートフォンやPCにデータを飛ばすため一人で計測できる。③直径巻き尺は、巻き尺のメモリが下段は長さ、上段は直径になっており、幹の円周を計測すると直径がわかる。

   樹高の測定は、①三角関数を使う、②高さの決まった対象物と比較、の方法があり、①はワイゼ測高器、ブルーメライス測高器、クリノメーター、測高稈(そっこうかん)を使用、②は人と比較して、30cm定規や直角二等辺三角定規を使用して測る。なお、クリノメーターはデジタル式も出てデータをPCに飛ばすことができ一人で測定できる。測高稈は8mあり重いが比較的正確に測れる。

 




(2) 立木材積の求め方 

   1本の木の幹の部分の材積となる。立木の材積は、上に行っても直径が細くならない「ウラブトの木(完満)」や、円錐形の「ウラゴケの木」、曲がった木、二股の木などで材積が違ってくるため、情報をもとに近似式を求め、これに調査で得たデータを当てはめて立木材積を求める。海外の短伐期では独自にデータをとって近似式を求める。1970年に林野庁計画課が公表した「立木幹材積表」という刊行物を用いて求める。林野庁ホームページで公開されているエクセルシートは地域の樹種別にマクロを使用して材積を求めることができる。

 


 

(3) 林分材積の求め方 

   林全体での材積となる。山の仕事をしているベテランは、山を歩いてトラック○台分と林分材積がわかるが、通常は

①毎木(まいぼく)調査(全ての木を調べる)、②標準地調査(林分の中でサンプルをとる)、で求める。①毎木調査は、全ての立木の胸高直径と樹高を測り、材積を出す。実際には、胸高直径は全て測るが、9~11cmを10cm、11~13cmを12cmと2cmごとにまとめたり、樹高は各胸高直径ごとに5本、10本と測るやり方でやっていた。また、1人の野帳つけ係に4,5人それぞれが測ったデータを伝え、記録するというやり方だった。大変な作業量となる。②標準地調査は、どこが標準地なのか、尾根筋、沢筋でも密、素など場所によって違うため山を全て歩き、サンプルとなる標準地を決める。その際、山全体の面積の正確性が求められ、航空写真を参照する、コンパスで測量して歩く、今は航空機やドローンを使用して上空からレーザーを照射するなどの方法がある。サンプルは、水平距離で10m×20m(0.02ha)、または半径約8m(0.02ha)の円形を使用する。

 

(4) CO2吸収・固定量の求め方 

   立方の単位で計測された材積を二酸化炭素トンにする。

   森林のCO2固定量(t-C02)の求め方は、

     森林の蓄積量(m3)×拡大係数×(1+地下部比率)×容積密度(t/m3)×炭素含有率×CO2換算係数で算出される。

 

   森林のCO2吸収量(t-CO2/年・ha)の求め方は、

     森林1ha当たりの年間幹成長量(m3/年・ha)×拡大係数×(1+地下部比率)×容積密度(t/m3)×

                                    炭素含有率×CO2換算係数で算出される。

     ※森林の蓄積量=幹の材積、拡大係数=枝の材積、地下部=根の材積

     ※林野庁ホームページにCO2吸収量の求め方(換算係数)が記載されている。

     ※容積密度は樹種ごとに決まっている。水分を含んでいないもの。

 

  多摩地区5齢級以上(21年生以上)のスギ・ヒノキのCO2固定量は、9,405千t-CO2である。2020年東京都のCO2

    総排出量は59,900千t-CO2で、スギ・ヒノキは20年以上かかった固定量のため、森林のCO2固定量に期待する声が

    あるのはかなりオーダーが違う印象。

    パリ協定の公約を守るための日本政府の森林吸収量の目標は、2021年10月22日に閣議決定された地球温暖化対策計画      において、2030年以降に毎年3,800万t-CO2としているが、これはかなりチャレンジングなことであり、若い森林を

    増やさないと毎年これだけのCO2を吸収するのは難しい。

 

3.森の経済的評価・方法 

山を土地付きで売る場合、立木を売る場合、森林火災保険に加入する場合、森林火災保険の給付を求める場合、山林を抵当に入れて借金する場合、財産相続などに、森林、立木を評価する必要が生じる。樹種、林齢、生育状況、森林の状況、

森林の立地、買い手側の目的などによって評価の基準や値決めの方法は色々ある。

 

主な森林の経済的評価は以下の4つである。

 ①売買価は、近隣の取引例にならって評価する。取引例が少ないため日本では皆無である。

 ②費用価は、主に10年程度の若い植林地で用いられ、育成費用として投下されてきた費用の合計をもって評価する。

 ③希望価は、伐期の近い造林地や、海外の短伐期植林地の採算性の投資判断もこれに似た考え方で捉え、

      将来得られる推定利益をもって評価する。

 ④市場逆算価は、一般的であり、市場価格から諸費用を差し引いた価値で評価する。伐期に達した林分でよく使われる。   この諸費用には植林費として苗木代、苗木運搬代、除草、除伐、枝打ち、間伐、植林管理など11の項目があり、

      伐採費として集材、土場管理、トラック積み込み、輸送、林道管理や整備など6の項目がある。日本は市場価格が

      安いため、諸費用に見合わない。

 

4.海外の事例紹介・まとめ

ブラジル、ポルトガル、オーストラリア、南アフリカの事例を写真で紹介。ブラジルのユーカリは7年伐期、オーストラリアのユーカリは10年伐期(成長の悪いものは12年)、沢沿いは法律で天然林を残している。南アフリカは、ユーカリの他、マツ、アカシアを植えている。

 

ブラジルの育種
ブラジルの育種
ブラジルのユーカリ苗
ブラジルのユーカリ苗
ブラジルのユーカリ萌芽更新
ブラジルのユーカリ萌芽更新

ブラジルのユーカリ植林
ブラジルのユーカリ植林

 

林業を考える時は複合的に考える必要がある。海外の植林は、まっすぐに育つ木や皮率が少ない、梢の枝ぶりが良い、

ha当たりどれだけパルプが取れるか、パルプの品質が良い、コストが安いなどを考慮した育種改良から始まる。樹種は成長の早いユーカリが多く、内部利益率は年率12~14%ほどで回る。日本は2021年の時点で-1.73%となった。60年寝かせた木が2000年でも0.01%となり、林業に対するモチベーションにはならない。また、立木が実際に製材品で売れるのは55%、パルプ材が20%、合わせて75%である。残り25%(皮5%含む)に価値をつける市場を作れば値段も上がってくるのではないかと考える。日本は海外と違い山主がそれぞれ独立しているため、流通が上手くいくためには山主たちがまとまったバーゲニングパワーが必要である。日本の木材自給率100%は難しいが適地適利用を目指したい。

 

感想

 森林を歩く時に多くの方が興味を持つのは、花や樹木、昆虫、鳥の名前ですが、脇本氏の「この山いくら?」では、

樹木の数値化から経済価値としての森林を考える良い機会となりました。海外の木材生産状況の紹介は、今の日本の木材問題を考える視点につながる貴重なお話だったと思っています。今後の日本の森林のあり方や問題を考え続けていけたらと思います。

 


身近な自然に気づき、興味を持ってもらうには?

 

 

【開催日時】2022年10月6日(木)19:00~21:20

【開催場所】リモート(Zoom)

【主  催】森林インストラクター東京会

【講  師】盛口 満先生(ゲッチョ先生)

     (沖縄大学人文学部こども文化学科教授) 

【スタッフ】ニレの会(令和2年)

【参加者数】50名

【報告者名】藪田卓哉

 

 

イヌビエの実をもつ「ゲッチョ先生」こと盛口満先生

(水田雑草のイヌビエは、雑穀ヒエの先祖(原種))

 


 

『琉球列島の里山誌』、『歌うキノコ』、『ひろった・あつめた ぼくのドングリ図鑑』、『コンビニ好きな虫のふしぎ』、『ものが語る教室』など、自然や生物に関わる多数の著書でおなじみのゲッチョ先生こと盛口満先生の学生時代のあだ名は“カマゲッチョ”。出身地の千葉県館山の方言でカマキリやトカゲのことをカマゲッチョと呼ぶことを面白がった大学サークル仲間が名付け親とのこと。大学卒業後に赴任された自由の森学園で“ゲッチョ”と省略されて生徒たちから呼ばれるようになったそうです。

今回は盛口先生に、子どもたちに身近な自然に気づき興味をもってもらうための様々な“入口”や心に響く伝え方など、様々な生き物に関する豊富なエピソードも交えてお話しいただきました。

 

1.身近な自然に気づき、興味を持ってもらうための入口について

 

●ゲッチョ先生にとって身近な自然への入口は貝だった

小さな頃から海辺での貝拾いが好きで夢にまで見るほど。それが自然や他の生物への興味を持つきっかけとなる。後年、『ぼくは貝の夢をみる』(アリス館)を著す。

 


●私たちは常識という「枠」の中に閉じ込められている

人は自分の常識の枠外にあることには興味を持てないし、話も聞かない。

同じ環境にいても、人によって見える(注目する)箇所は異なる。地衣類に興味を持った先生は、与那国島の有名な観光地で新種の地衣類“ヨナグニダイダイゴケ”を発見。それまでに多くの人たちも見ていたはずだが...

 

 

●人は成長の過程で、興味・関心の比重が自然や生き物から人へと移っていく

子どもから大人へと成長するにしたがって、特に中高生くらいから生き物に興味を持たなくなる傾向がある。そんな中高生に興味を持ってもらうのは大変なこと。

 

●入口を知るためには、子どもたちの生き物についての「常識」の枠を知ることが重要

日常出会う生き物は?という問いに対して、那覇の中学生から返ってきた答えは「犬、猫、鳩、ゴキブリ、草」

この枠外にある生き物に対しては、なかなか興味を持てない。

 

●身近な自然への扉を開く「ドアボーイ」としての役割

自然を知らなくても生活できてしまう現代の子どもたちに対して、身近な自然への扉(入口)を開けて、自然に気づかせ興味を持ってもらう役割が教員にはある。

 

●人は、自分の体験と結びつけられるモノには興味を持てる

夜間中学生は「ああ」と言い、中高生は「へえ」と言う。 沖縄のフリースクール珊瑚舎スコーレの夜間中学生(お年寄り)たちは、人生で様々な体験をしているため、授業で学習したことに対して、自分の体験と結びつけて「ああ、それはこういうことだな」と実感し興味を持つことが出来る。

一方、まだ体験の乏しい普通の中高生は、授業で教えられたことに対して、「へえ、だから何なの」となる。結びつけて考えることが出来る体験がないため、対象に興味を持てない。

でも、今の子どもたちにも「ああ」と実感でき興味を持てるような何かがあるはず。その「ああ」の対象を見つけることが、身近な自然に興味を持ってもらうための大きなポイントではないかと考えている。

 

●他者とのやりとりの中に、自然への扉(入口)に気づくヒントがある

既に自然に興味を持っている人は、興味を持っていない人がどのように自然に興味を持つようになるのか理解しにくいが、他者とのやりとりの中にそのヒントがあるのではないか。

 

●たとえ嫌いでも興味の入口になるモノもある

「ムシ嫌いだから、授業でムシのことやらないで」と女子中学生に言われたことがある。でも、嫌いであっても思わず反応してしまうモノ、「へえ、だから何なの」では済ませられないモノには、子どもたちは引き付けられ、興味への入口となる。寝ている子どもたちも目を覚ます。カ行で始まる3つのモノに子どもたちは引き付けられる。

 

生徒を引き付ける3Kの法則

 ・コワイもの

 ・気持ち悪いもの

 ・食えるもの

 

●骨は生徒を引き付ける良い教材

 骨の良い点

 ・知っているようで知らない

 ・ちょっと気持ち悪い

 ・手で持てる

骨は生き物の暮らし(生態)を教えてくれる。肉食動物でも獲物の捕り方・食べ方(丸呑みするのか歯で噛んで食べるのか)の違いによって歯の付き方など形態も異なる。また、骨は生き物の進化の歴史も教えてくれる。

 

●盛口先生が苦手だったモノについてのエピソード

ナメクジが苦手だったが、ナメクジ好きな女子生徒に触発され、ナメクジに興味を持つことになり、その結果、本まで出してしまうほど熱中する。

(※書籍名:『ゲッチョ先生のナメクジ探検記』)

 

●植物に「実感」をもってもらう、興味をもってもらうための工夫

身近にある植物を使うことで実感しやすく興味を持ってもらえるのではないか。

 ・ソテツの実をくり抜いて笛をつくる

 ・アダン(タコノキ科の常緑小高木)の実の繊維を使って筆をつくる

 ・ゲットウ(ショウガ科の多年草)の茎の繊維を使って紙をつくる

 ・ドングリ(オキワナウラジロガシの実)を調理して食べてみる

 

2.心に響く伝え方について

 

●人との関わりを持たせて生き物のことを伝える

自由の森学園時代には、15年間で計1200枚の飯能博物誌という理科通信を出した。現在は、沖縄タイムス日曜版で子ども向けの「沖縄おもしろ博物学」を連載中。今年で22年目になる。これまでの経験から、興味を持ってもらえるものが何か分かってきたことがある。

それは、ただ生き物のことだけでなく、生き物が誰か(人)と関わっている話を書くと興味を持たれて伝わりやすいということ。なぜなら、人は基本的に人に興味を持つものだから。自然に興味を持つのはその次になる。

 

 

●対象を他者に伝えるための手法として、生き物の絵を描く

描くことで見えること、気が付くことがある。描いたもので伝えられることもある。

 

生き物の描き方のコツ

・それぞれの生き物のスキーマに則るとうまく描ける

・写真では伝えられないことを描く

 

昆虫の絵のスキーマとは?

・左右対称である

・体は節でできている

・輪郭がはっきりしている

・脚は胸部から3対出ている 等

 

(例)スキーマに則ったイモムシの描き方

本来の脚は胸部につく3対。それ以外に体の後方に脚のようなもの(腹脚)がついている。その数や位置はイモムシの種類によって異なり、これに着目して描くと本物らしくなる。

 

 

●まとめ

研修の終わりに、タイトルの『身近な自然に気づき、興味を持ってもらうには?』に関して、「自分も未だ試行錯誤しているが、目の前の学生たち、子どもたちがそのヒントをくれるのではないかと考えている」とのお話がありました。理科教員として多くの子どもに接してこられ、現在は教員を目指す学生を指導されている先生の豊富な知見に基づいた今回のお話は、受講者にとって大きなヒントを得る機会になったことと思います。

ナメクジ好きな女の子に触発され、それまで苦手だったナメクジに興味を持ち、『ゲッチョ先生のナメクジ探検記』を著されるほど熱中してしまう先生の姿は、大人も子どもと一緒になって身近な自然を面白がることこそが、子どもに自然に気づき興味を持ってもらうための出発点だと示されているようにも思われました。

今回は、この限られた紙面にはとても全てを記しきれない様々なエピソードや幅広い好奇心に基づいた沢山のお話をお聞かせいただきました。我々を取り巻く身近な自然の中にも、未知の興味深い世界が広がっていることに改めて気付かされ、新たな興味の扉を開いて頂いた思いです。ありがとうございました。

 


 

地衣学入門講座

【開催日時】2022年9月1日(木)19:00~21:15

【開催場所】リモート(Zoom)

【主  催】森林インストラクター東京会

【講  師】山本好和先生

(大阪市立自然史博物館外来研究員、秋田県立大学名誉教     授、地衣類ネットワーク代表、地衣類ネットワークスクー ル主宰者)

【スタッフ】ニレの会(令和2年)

【参加者数】59名

【報告者名】諏訪知子

 

笑顔の山本好和先生
笑顔の山本好和先生

【内 容】

 

1 地衣学の基礎と応用

 

①「こけ」ということば

・「木毛」という言葉の歴史は古く、古事記や万葉集にも現れており、キノコ以外の小型の植物を「コケ」と呼んでいた。  狩野派の襖絵や鎌倉鶴岡八幡宮の苔紋にも画かれ「コケ」が人々の生活に身近なものであった事を伺わせる。

 

・「コケ」と名のつく生物は蘚苔類、地衣類、シダ類、種子植物の順に多い。

地衣類と蘚苔類の違いは色であり、蘚苔類は表裏ともに鮮やかな緑色をしており、地衣類は白緑色の表、黒褐色の裏面であり、外見上でも見分けがつく。

 

②菌類と藻類の共生生物

・地衣類とは3つの特徴をもつ共生生物である。

 

地衣類は藻類(緑藻、緑藻+シアノバクテリア、シアノバクテリア)と共生関係を築く事ができる真菌類(カビ、菌の仲間)で、菌糸の檻の中に藻類が閉じ込められているイメージの作りになっている。 

そこで藻類が光合成を行い、光合成産物は菌類に授受され、菌類は藻類のために特有の住みか(地衣体)をつくる。

 

昔から人々の生活に身近な存在
昔から人々の生活に身近な存在
本日の要
本日の要

 

③形  

・地衣体は特有の形態であり、葉状地衣類、樹状地衣類、痂状地衣類がある。

 

④地衣類の生活域 

・樹上、岩上、葉上、地上、人工物等安定した器物の上に見られる。

 

⑤生育環境 

・熱帯から寒帯、さらに極限環境で生きていくことができる。

・菌類と藻類が共生することで地衣成分が作られ、その成分により有害な紫外線や外敵から防御され、様々な環境に適応することができる。

 

・全世界で約20000種、日本で約2000種知られている。

 

⑥増えかた

・菌類は子器から胞子だけが飛ぶ有性生殖と、粉芽、裂芽、泡芽から菌糸と藻類が共に飛ぶ無性生殖がある。有性生殖の場合、胞子は藻類と出会う必要がある。

・生長は環境に影響を受け、年間1ミリ程度づつ大きくなっていく。

 

暑さ寒さもなんのその
暑さ寒さもなんのその

2 関東地方各地の地衣類の紹介

 

・標高が低く、海岸に近い鎌倉から、寒帯の本白根山で見られる地衣類を紹介された。

海岸地帯特有のイソカラタチゴケ・イソクチナワゴケ

暖温帯の御三家のナミガタウメノキゴケ・ウメノキゴケ・マツゲゴケの他、良く見られるコアカミゴケ・ジョウゴゴケモドキ・ロウソクゴケ・コガネゴケ・ヘリトリゴケ

筑波山麓のウスイロキクバゴケ・イワカラタチゴケ

冷温帯のセンシゴケ・トコブシゴケ・ハコネゴンゲンゴケ・キゴケ・カブトゴケモドキ そして火山地帯特有のイオウゴケ。

亜寒帯はヤマヒコノリ・ナガサルオガセ・ホネキノリ等。

寒帯代表は、有性生殖のための子器ではなく、見るからにキノコの形をした胞子散布体をつくる、アオウロコタケ、他にミヤマハナゴケ、タカネゴケ等が見られる。

 

筑波山で見られる地衣類
筑波山で見られる地衣類
胞子散布体(キノコ)を作るアオウロコタケ
胞子散布体(キノコ)を作るアオウロコタケ

 

今回地衣類の基礎を学ぶ機会を得る事ができ、興味深い世界が有ることに気付かされた。地衣類の不思議さと、山本先生の地衣類に対する愛情も感じ、その世界の入り口に立たせて頂いた先生に感謝して、報告を終わります。

 

以上

 


野生動物の管理を考える

 

 

【開催日時】2022年6月30日(木)19:00~21:25

【開催場所】リモート(Zoom)

【主  催】森林インストラクター東京会

【講  師】小泉 透 先生

  (国立研究開発法人森林研究・整備機構 フェロー)

【スタッフ】ニレの会(令和2年)

【参加者数】48名

【報告者名】榎本 衛

 

小泉 透 先生(持っているのは猟銃に装着するスコープと捕獲したシカの皮をなめして自作したカバー)
小泉 透 先生(持っているのは猟銃に装着するスコープと捕獲したシカの皮をなめして自作したカバー)

 

【内  容】

 

 野生動物の管理として大きな問題となっているイノシシとシカを取りあげ、被害の問題は私たちの社会と密接な関係があることをお話しいただきました。

 

1. けもの(哺乳類)って何?

 

・世界に生息する哺乳類は4,500~4,800種で日本には110種が生息し、固有種が多い。

・哺乳類は三畳紀後期の化石が最古で、新生代(6500万年前)に入って爆発的に適応放散した。(注:適応放散とは、同一の原生物が種々の異なった環境に進出するとそれぞれの環境に適した生理的、形態的分化を起こし、多数の異なった系統に分かれること。哺乳類は体の大きさやつくりをさまざまに変化させ、陸上、地中、海、空など、あらゆる空間に生息できるようになった。)

 

シカは上あごに前歯がないので引きちぎる食べ方になる
シカは上あごに前歯がないので引きちぎる食べ方になる

<痕跡から知る体の仕組み>

・体のつくりの違いが足形などの痕跡の違いにも現れている。

・シカは上あごに前歯(切歯)がないので引きちぎる食べ方になり、食痕として植物の繊維が残る形になる。毛は折り曲げるとポキポキと折れてしまう。このため毛皮としての価値はなく、なめし革として利用される。

 

2. イノシカ物語

 

<増える個体数、広がる分布>

・法律の定義とはやや異なり、研究者の間では数が減っていれば保護をして数を増やし、数が多くて被害が出ているのであれば密度を下げ、さらには収穫を含めて管理と呼んでいる。

 

      シカの分布域は2020年には67%に拡大した            (環境省、都道府県資料から作成)
      シカの分布域は2020年には67%に拡大した            (環境省、都道府県資料から作成)
シカの推定個体数は現在189万頭(本州以南)(環境省資料)
シカの推定個体数は現在189万頭(本州以南)(環境省資料)

 

 ― シカの分布

・これまでに行われたデータをもとにシカの分布域の変遷を調査した。その結果、1945年は全国で10%の分布域であったが、その後、一定の割合で広がり、2020年には67%となっている。

・さらに解析すると、シカは奥山の森林から農地が混じった里山へ、さらには雪が深いところにも分布を広げていることがわかった。

・個体数を推定すると、本州以南で189万頭、北海道を入れると250万頭であり、捕獲を進めて数を減らしたものの、まだまだ数は多い。

 

― イノシシの分布

・イノシシはおもに近畿から九州にかけての生息域であったが、分布を拡大して2020年では全国の56%に分布している。シカと同じく分布の拡大速度に拍車がかかっている。

・イノシシも低標高地域、森林率の低い地域にも分布を広げてきたが、シカと異なり積雪地帯への進出は進んでいない。イノシシはシカより脚が短いことが影響していると考えられる。

・捕獲を進めたため、一時のピークから数を減らしてきているが、それでも全国で80万頭くらいは生息している。

 

・シカ、イノシシともに限られたところに生息していたが、戦後、中山間・農村地域に急速に分布を拡大してきた。

・この原因として、気候変動の影響との考え方もあるが、戦後、植林した人工林が高齢になり、これがシカのシェルターとして機能しているのではないかと考えている。

・イノシシに顕著なのは人工密度の高い地域へ分布が拡大していることであり、アーバンワイルドライフの対策が新たな問題となっている。札幌にヒグマが出現するのも、その例である。

 

・江戸時代までは、獣害は集落の死活問題だった。

・人工林の大半は1970年代までの拡大造林、再造林として積極的に進められてきた森林が今も残り、明るく開けた若い林からうっ閉した林に移行してきた。このため以前はノネズミによる被害が激しかった。シカは森林環境の変化には影響を受けず、個体数が回復してきた1980年代から被害が激しくなってきた。

 

設置された金属製の防護柵
設置された金属製の防護柵
捕獲によりシカの頭数が減り、植生が回復してきた
捕獲によりシカの頭数が減り、植生が回復してきた

 

<捕獲と防護は相補的>

・増えすぎたシカの対策としては、柵をつくって防護する、捕獲して取り除くという2つの方法になる。

・防護柵は物理的なバリアを築いてシカの侵入を防ぐことが目的で、金属製、樹脂製、ネットなどがある。

・捕獲の目的は害獣の個体数を減らして出現頻度を抑制することである。

・富士山では、高密度で生息していたがシカを繰り返し捕獲した結果、低密度になり成果が現れた。ただし草本の植生回復は早いが、木本が育つための稚樹の回復は遅れている課題がある。

・シカの捕獲には、給餌誘引、狙撃、忍び、待ち伏せ、くくりわなを使っている。シカの動きに合わせて捕獲方法を考え、取り逃がしなく確実に捕獲することがとても大事である。

 

<被害だけじゃない:アンダーユーズ問題>

・日本の人口は2010年から2050年にかけて、大都市の過密化と農村地域での過疎化が同時進行すると予想されている。人が住んでいない地域がどんどん増え、シカ、イノシシが分布を広げて被害問題が激化してしまう恐れがある。一方、大都市では大型哺乳類の進出が問題になり、農村と都会の両方の問題に対処する必要がある。

 

3. カメラトラップ

<野外活動に何かと便利なデジタルカメラ>

・最近のカメラトラップは撮影した画像をメールで自動送信し、動画も撮影できるようになっており、動物のさまざまな姿を捉えることができる。

 

追加の話題:ジビエを考える

・イギリスの森林管理署はシカ処理場を併設しており、捕えたシカ肉はトレーサビリティで履歴管理している。森林管理官がシカ肉も管理する。

・シカは害獣ではあるが「動く林産物」でもあり、得られた収益は森の所有者に還元されてこそ持続可能となる。

カメラトラップで自動撮影されたイノシシ
カメラトラップで自動撮影されたイノシシ

 

【感  想】

 

 自然環境に生息するシカやイノシシが増加して、人間との接点でさまざまな問題を引き起こしていますが、効果的な捕獲と防護によって生息数を減らしていることも理解できました。一方、私たちの居住地域ではアライグマやハクビシンなどの哺乳類が頻繁に現れるようになり、シカと同じように人間社会と軋轢を生じています。野生動物の管理を農村と都会にまたがる問題として捉え、今後に活かしたいと思います。ありがとうございました。

 

「画像の引用、配布、転載はできません」

 


心に残るガイドをするために

 

【開催日時】2022年6月2日(木)19:00~21:15

【開催場所】リモート(Zoom)

【主  催】森林インストラクター東京会

【講  師】西谷 香奈 氏(FIT会員 平成21年度)

【スタッフ】ニレの会(令和2年)

【参加者数】37名

【報告者名】石井由美子

 

"Enjoyable" 笑顔の素敵な西谷先生
"Enjoyable" 笑顔の素敵な西谷先生

【内  容】

 

1.参加者の心に届く伝え方をするために 大切にしたい4つのこと(TORE)

2.事例紹介「伊豆大島の椿の物語」

3.TOREを意識しながら感想共有(ブレイクアウトルーム)

4.TOREトレーニングの効果と実践

 

そのままでは何も語らない自然や人の暮らしなどの資源、その意味や重要性は相手の心を動かすことによって伝わる。単なる知識の伝達だけではその場限りでいずれは忘れられてしまうが、人は興味を刺激、啓発されるとその事をずっと忘れずそれが心の変容に繋がる。感動が行動の変容を生む。

森林の語りかけてくる声を伝える私たち森林インストラクターが、参加者の心に残るガイドをするために大事な4つのこと(TORE)を日々実践していらっしゃる西谷先生にお話しいただいた。

 

1  TOREはアメリカのコミュニケーション心理学教授が研究により導き出した理論で、インタープリテーションを成功させるための方法の1つである。

 

T(Thematic):テーマがある

・テーマ(伝えたいメッセージ)を最初に明確にすることによって、それを理解してもらうために必要な情報と余分な情報がわかり、整理しやすくなる。

O(Organized):わかりやすく構成•整理されている

・情報•知識の羅列ではなく流れ(ストーリー)がある。

・詰め込みすぎない。覚えて帰れる要点は4つ以下。

R(Relevant):受け手に関連がある(お客様が自分ごととして感じる)

・健康、食、命など、誰にでも当てはまる大事な事を話題にする。

・既存の知識や過去の経験など、受け手の頭の中にある事とつながっているとそれがきっかけとなり興味を引き出す。

・わからない言葉がない。

E(Enjoyable):楽しい(楽しくなければ興味を失う)

・笑顔、フランクな雰囲気、動きのある表現。

・新しい事を知る。

・興味をそそる良い質問。「何の鳥?」ではなく「何種類の鳥が鳴いている?」のように、知識がなくても耳をすませば答えられるような質問だとそこから次の説明につなげられる。

・イラストや小道具の工夫、Rにもつながる五感を使った体験など、その他色々。

 

2 「伊豆大島の椿の物語」をTOREを意識しつつ視聴。大島の椿油ぐらいは知っていたが、驚きの火山島に住む人々と椿の関係であった。

 

この日海岸は風速10.5m! 椿は防風林として火山の島の畑を守る。
この日海岸は風速10.5m! 椿は防風林として火山の島の畑を守る。

椿油は食用にしてもおいしい。
椿油は食用にしてもおいしい。
防風林、食品、化粧品、木彫、炭、観光、園芸、大島の高校生の教育活動。島で椿の果たす役割は非常に大きい。
防風林、食品、化粧品、木彫、炭、観光、園芸、大島の高校生の教育活動。島で椿の果たす役割は非常に大きい。

 

休憩をはさみ再開後、チャットで「T」を記入。深く捉えた意見もあった。

 

3  zoomの「ブレイクアウトルーム」機能を使用し、参加人数の関係で予定よりも少ない7ルームに分かれ、それぞれニレの会メンバーが進行役を務め20分間TOREを意識しながら感想を共有した。FIT初の試みであったが、少人数での意見交換は概ね好評のようであった。

ルームから戻り、それぞれのルームで出た「O•R•E」及び「改善点の提案他」を5つのルームから発表、先生のコメントをいただいた。

 

4   次に日本ジオツーリズム協会のプロガイド仲間と行なったオンラインツアーやリアルツアーで事あるごとに重ねてきたTOREトレーニングの効果をお話しいただいた。

・改善点などは言いづらい面もあるが、単なる個人の好みや感想ではなく、TOREに沿って指摘すればスムーズにいいアドバイスができる。その結果互いへのアドバイスが的確になった。

・ガイドは個性も手法も物語も違うが、TOREがそろうツアーは楽しくて心に残った。

・回を追うごとに余分な情報を削ぎ落とせるようになり、TOREはツアー作りの指針となってガイドを支えた。

・チャットで参加者が感じた「メッセージ」を聞くことで、ガイドが自分に足りなかったことに気づけ、考え学ぶことによって次に活かすことができた。

 

最後に、今、考えられるトレーニング方法をまとめていただいた。

・TOREの視点で本や講演、ツアーを見る。

・ツアー作りの時、最初に「1番伝えたいメッセージ」をシンプルな一文で書き出し(必要ならチームで共有)それを軸に、余分なものを削ぎ落として O(構成)する。参加者にとっての R(自分ごと)、E(楽しい)の工夫も!

・ガイド同士のアドバイスはTOREを元にして行う(個人の好みではなく理論に沿ってのアドバイスを)。

 


 

横文字の苦手な私はTORE?何それ読めない‥という感じでしたが、リハーサル・本番と重ねて先生のお話を伺い、大変勉強になりました。色々な形で今後の活動に活かせそうですが、先ずはオンラインツアー、そしてリアルツアーにも是非参加したいと思います。ありがとうございました。

 


 

安全研修(座学編)

 

【開催日時】2022年4月7日(木)19:0021:45

【開催場所】リモート(Zoom

【主  催】森林インストラクター東京会

【講  師】第一部:登山家・山岳認定医 野口いづみ先生

  第二部:FIT安全部会長 入江克昌氏

【スタッフ】ニレの会(令和2年) 

【参加者数】54

【報告者名】福山容子

野口いづみ先生(写真中央)
野口いづみ先生(写真中央)

【内  容】

 

◇第一部 タイトル「山で起こるケガと虫刺されと病気の対処」 野口いづみ先生

 

1. ケガの対処

安静、冷やす、圧迫、拳上、固定のRICES処置が大切。

① ケガや痛みにはテーピングを有効に使用する。引っ張っても痛くない方向にテーピングする。伸縮性と非伸縮性のテープはできれば両方持つと良いが、重さが負担になるような場合は非伸縮性の方が用途が多いのでベターです。

② 足首の捻挫には二トリートの「足首かんたん」が優れもの。12分で巻ける。

③ 冷却も重要。沢水や雪をポリ袋に入れて氷嚢代わりにする。水筒やゴム手袋も冷却水入れに代用できる。冷却ジェルシートも有効。

④ 出血には生理用ナプキンが個別包装で清潔、携行に適し、吸湿性に優れているので便利。

⑤ 大怪我をしている場合は低体温症になるので患者の保温につとめ、救助を要請する。

⑥ 靴擦れはクッション性のあるキズパワーパッドが効果的。

⑦ 足のつりの原因は脚の疲労、冷え、塩分不足によるもの。携帯カイロなどで温め、梅干や塩昆布、みそ汁などで塩分を補給する。ストックやペットボトルでマッサージをする。漢方薬68番の「芍薬甘草湯」は骨格筋と内臓筋の両方に効果があり即効性もあるので持参するとよい。

⑧ 膝痛・腰痛にはテーピングやサポーター、サポートタイツ、腰ベルトが有効。応急対策として腰ベルトの代用にヘッドランプのベルトを使用することもできる。下山後、痛みが強い場合は必ず専門医の治療を受けること。

 

*膝ベルトと足つりには下記、野口先生のサイト「山ボケ猫のブログ」が参考になります。

https://plaza.rakuten.co.jp/yamabokesya/diary/201906020000/

 

 


 

2. 虫さされの対処

① ヌカカやブヨ 蚊柱を横切らない。刺されないよう長袖や手ぬぐいを巻く。虫よけスプレーには農薬ディートが含まれているものがあるので、お手製の防虫用ハッカ油がおすすめ。「ムヒアルファ」を塗る。

② ヤマビル シカの増加につれて西日本から東日本へと分布域が広がっている。帽子・長袖を着用して肌の露出を避ける。モンベルの「昼下がりのジョニー」が効果的。アルコールをスプレーするとヤマビルはぽろりと落ちる。

③ マダニ 刺されないよう藪や獣道は避ける。無理に取ろうとすると口器が皮膚に残り炎症を起こすので、医療機関で除去してもらう。2013年から2021年7月までにマダニによる感染症重症熱性血症板減少症候群による死亡者は641件。西日本や北海道に行く場合は注意すること。

④ ハ チ 年間約20件の死亡者があり人にとっては最も危険。アナフィラキシーショックは発症から心停止まで約15分と早いので、アドレナリン自己注射液のエピペンを太腿に押し付けて注射する。高齢者、1年以内にハチに刺された場合、大量のハチに刺された場合は中毒症状を起こしやすいので、エピペンを注射し、救助を要請する。

 

 


 

3. 内科的な病気と体調トラブルの対処

① 胃腸のトラブル 高所では下痢、便秘、膨満感を起こしやすい。スポーツドリンクなどで十分な水分補給を心がける。膨満感には漢方薬100番の「大建中湯」や正露丸が有効。炭酸飲料やビールのがぶ飲みは避ける。

② 心臓の病気 登山中は運動により血圧が上昇し、心拍数が増加する。山では平地の2.5倍突然死が多くなる。狭心症や心筋梗塞など虚血性心疾患には十分に注意する。胸痛発作が起きたら、①冷水を飲ませる。②ニトログリセリンを投与する。③アセチルサリチル酸入りのアスピリン「バファリンA」を飲ませる。錠剤は噛み砕いて摂ると吸収効果が早い。アセトアミノフェン・イブプロフェン入りのアスピリンは効果がない。

・登山中は息切れしないよう安全な心拍数でマイペースを守る。

安全な心拍とは、最大心拍(220-年齢)×0.75 スマートウォッチなどで管理する。

・脱水は血栓をできやすくし、心筋梗塞を起こしやすくするため、登山後の入浴は十分な水分補給をしてからにする。ビールを美味しく飲むために水分を控える、サウナに入るなどの行為はご法度。

③ 糖尿病 登山時には節食にならないようこまめに食べて、糖分を補給する。血糖値の急上昇によりインシュリンが大量に分泌されて起きる機能性低血糖(一過性)にも注意する。午前中には大福などのあんこものは食べないこと。

④ 登山と水分摂取 脱水は心筋梗塞・脳梗塞・高山病・熱射病の原因となるので脱水しないように注意。水だけだと体液が薄くなってしまうので、塩分と糖分を含んだスポーツドリンク(二倍に希釈)が効果的。塩分が強い塩飴は喉が渇くだけなので山向きではない。登山後のむくみは抗利尿ホルモンによるもの。通常数日で回復する。

 

 


 

【まとめ】

実際に野口先生ご自身が処置をされた実例を交えての講義はとても参考になりました。山で限られた持ち物を使用していかに効果的に処置をするか、大事に至らないための予防法など多くを学びました。

 

第二部として、FIT入江克昌安全部会長から、「FIT安全対策手引き」の使い方とCONE保険申請手続き等についてというタイトルでお話がありました。

 

安全研修(野外実践編)は初夏の親子観察会の前に実施予定です。

 

【まとめ】

昨年はFIT一年生として親子観察会を3回経験し、安全やCONE保険について一通りの理解をしたつもりでしたが、入江安全部会長のお話は、改めて保険の内容や手続きについて再確認、整理をする貴重な時間となりました。今後も折にふれて「FIT安全対策の手引き」を読み、スキルアップにつなげたいと思います。

 

 


美しい生きものを楽しみ自然を知る

【開催日時】2022年3月16日(水)19:00~21:00

【開催場所】リモート(zoom)

【主  催】森林インストラクター東京会

【講  師】藤原 裕二氏(FIT会員)

【スタッフ】元樹会(令和元年)

【参加者数】58名

【報告者名】古谷 一祐


【内  容】

1.美しい生きものを楽しみ自然を知る

(1)私の自然活動の原点

渓流釣りで美しいヤマメに惚れ込みその生態を知ることで、ヤマメの棲む自然度が高い渓流を残したい思いから自然保護団体に参加した。渓流沿いで美しい野鳥を見てバードウォッチングを始めた。ある生き物に惚れ込むことでその生態を知ることになり、その生き物を守るために自然保護活動に繋がることになった。今日の話しの基本的な趣旨は、この一連の流れが自然活動のポイントになるのではないかということを伝えたい。

(2)著書

「多摩川自然めぐり 美しい生きものたちとの出会い」(けやき出版)「自然の中で美しい生きものと出会う図鑑」(けやき出版)等

(3)美しいと言われる生きもの

人間社会における美しい生きものは、① 話題になる、② ツアーや観察会の客寄せになる、③観光地などの売りになっている、④見ると得した気持ちになる、⑤熱狂的なマニアがいることなど魅力的な存在になっている。

【花の写真】

カタクリ、ハナネコノメ、スミレの仲間、イワウチワ、シラネアオイ、コマクサ、レンゲショウマ、ランの仲間

【蝶の写真】

ギフチョウ、ミドリシジミの仲間(ゼフィルス)、オオムラサキ、キベリタテハ、カラスアゲハ、クジャクチョウ、クモマツマキチョウ

【野鳥の写真】

オオルリ、キビタキ、サンコウチョウ、ルリビタキ、コマドリ、カワセミ、アカショウビン

(4)観察会などで美しい生きものを伝える

インストラクターという「森の案内人」にとって、美しい生きものは集客効果や説明材料となり、観察会の印象を高め、自然に関心を持ってもらうきっかけになるはずだが、自然観察会の現状は、参加者が限定されており、多くの人は生活圏が限られているため、野生の生きもののことを知らないでいるのではないか。難しい言葉や理屈では聞いてくれない。そういう人に自然に関心を持ってもらうにはどうしたらいいのか。

美しい生きものを大切に思う気持ちは、自然の中で美しい生きものと出会い、その生きものを好きになり夢中になることで育まれる。

「美しい生きものと出会う」ことが入口となり、好きな生きものの生態や棲む環境を知るきっかけとなり、自然の大切さを知り、自然保護の思いが芽生えていくことに繋がるのではないか。

(5)生きものについての基本的なこと

ア)生きものの美しい姿や面白い行動は、全て「生きものの基本的性質」に結びついているということである。

美しい花の色、形、咲く時期は、目的の昆虫等を呼び込み花粉を媒介してもらう誘導システムであり、多くの子孫を残し生き続けていくための仕組みになっている。

昆虫、野鳥、哺乳類など動物の視覚は、それぞれの視細胞の中の錐体の種類(感じる波長)と数により見える色が異なっている。例えば哺乳類はオレンジ、赤の区別ができないため、カワセミやアカショウビンのオレンジ色はテンなどの哺乳類には見えにくいので保護色になっているのではないか。

野鳥の美しい鮮やかな色やさえずり、餌を捕る動きは美しいが、子孫を残して繁殖し生き続けるためのものである。

蝶の美しい鮮やかな色や紋様、飛び方も子孫を残して生き続けるためのものと言える。

つまり、美しさ・たくましさは、異性にもてることで子孫をより多く残す仕組みになっているということである。

イ)生きものの基本的性質は①環境から細胞膜などで独立している、②エネルギーや栄養を得ている、③環境に耐え維持する、④子孫を残すということであり、食物連鎖(生食連鎖、腐食連鎖)の中で多様な生きもの間の栄養・エネルギーの循環が行われている。

ウ)森林などにおいて、植物は動物の生息場所と食べ物を提供し、動物は植物の花粉媒介と種子散布を提供し、お互いを助け合う生物間相互作用の関係にあり、植物にとって、動物は動物散布という種子散布の誘導する仕組みのひとつであるということが分かる。ただ、植物には大事な部分が動物に食べ尽くされないための被食防御作用という仕組みがある。

エ)進化

突然変異で生まれた個体の中で、環境に適応し、子孫をたくさん残す生物群が生き続けることになり、様々な形態や生態をもつ生きものが生存するのは、進化の結果である。

オ)共進化

  アングレカム・セキスペダレ(長い距(30㎝)をもつ着生ランの一種)を見たダーウィンが存在を予測したキサントパンスズメ(長い口吻をもつ蛾)のように、異種生物同士が生存や繁殖に影響を及ぼしあいながら進化する現象があり、種間の相互関係による自然選択が行われていることが分かる。

(6)まとめ

・美しい生き物は、観察会などへの集客効果がある。

・美しい生き物は自然や自然保護に関心を持ってもらう入口となる。

・美しい・面白い姿や行動は、「生き物の基本的性質」に結びついている。

・生き物の姿や色は、人のためでなく、個々の生き物が生き続け、子孫を残すためのものである。

・それは主に、環境への適応と生物間相互作用により、進化によって生まれたものである。

 

ハナネコノメ

    ミドリシジミの仲間(ゼフィルス)

    左上ハヤシミドリシジミ

    左下ミドリシジミ

    右上メスアカミドリシジミ

    右下アイノミドリシジミ

キビタキ


2.   自然の中で見た哺乳動物の姿〜哺乳動物との出会い

【ツキノワグマ】

成獣で頭胴長120〜163(平均140)㎝でそれほど大きくない。優れた種子散布者で、多様・大量の果実を食べ、行動範囲は糞をするまで最大22㎞と言われる。実はおとなしい性格でドングリ、果実などの植物、アリ・ハチなどを食べている。クマがいても、人間の存在を知らせればクマは逃げていくのが普通。

【その他】

タヌキ、キツネ、アナグマ、イタチ、テン、ニホンジカ、ニホンカモシカ、イノシシ、ニホンリス、ムササビ、ノウサギ、ノネズミ、ニホンザル

冬毛のテン(3月)
冬毛のテン(3月)

【まとめ】

・日本の哺乳動物について、多くの人がいろんな場で語るが、実際の姿を知らない人が実に多い。

・哺乳動物の個体が、いろんな環境に適応して生きている姿を見ると「人間と同じ生きもの」として、命の尊さを感じる。

・日本の哺乳動物は、積極的に人間を襲うことはなく、「通常は」危険動物ではない。むしろ人間を恐れている。

・哺乳動物は、植物のあらゆる部位を食べている。特に、果実を好んで食べ、種子散布をし、植物の移動を助けている。

 

日本の哺乳動物の生態は、一般にあまり知られていなく、誤解されている面もある。インストラクターとしては、動物と植物の関係など生き物の生態について実際的な知識を持ち、伝えることが重要と考える。