2024年度 草木染指導者研修
【場 所】川崎市黒川青少年野外活動センター
【実施項目】
・講義:草木染の概要
・実技:キバナコスモスとハルジオンで、シルク製とレーヨン製のストールを染色する。
【スタッフ】講師:奥村具子、中野修平(敬称略)
【受講生】飯塚義則、坂井晋平、鈴木康浩、長岡篤、松井紀尚、森栄(敬称略)
【報告者】森栄
【実施概要】
2024年度初回の草木染指導者研修が開催されました。
午前前半、先ずは草木染の基本に関する講義です。
古代の染料の多くには薬効・防虫・殺菌・消臭効果があり、藍染めの剣道着はその一例です。日本の草木染は土偶の時代まで遡り、五行思想、冠位十二階、江戸期の藍染め普及等々、その時代の哲学や風土を表す色彩文化を作り上げました。そして、「草木染染料植物図鑑」の著者山崎青樹、染色技術復元の吉岡幸雄、染織の人間国宝志村ふくみ等の尽力により、草木染めは今に引き継がれています。
次に、草木染の方法に関する講義です。染める繊維は主に絹・ウール・木綿・麻・パルプが原材料のレーヨンとなります。媒染剤として、今回は明るい発色のアルミニウム(ミョウバン)媒染剤と濃い発色の鉄媒染剤を使用します。染まり難い繊維は濃染剤で前処理します。
媒染は金属イオンによる色素の発色と布への定着に係る化学反応ですが、アルミニウムイオンを樹木の灰から、鉄イオンを田の泥から得ていた先人の智慧には驚きです。
講義に続き草木染めの実技に入ります。
講師が昨年秋に摘んで乾燥させておいたキバナコスモス、それと最近採取のハルジオンを20分煮出して染液を作ります。この間に媒染剤も作ります。ここまで用意が出来たら、予め、絹・木綿・濃染処理済木綿・ウールでサンプルを作成します。
さて、受講生はサンプルを参考に、自身の染めたい色を決め、染色方法の組み合わせを選択します。今回は、染液2種類・媒染剤2種類が用意され、1枚の染色に2種類の媒染剤の使用も選択出来ます。鉄媒染剤は微量の付着でも変色が強いため取扱いに注意します。
自然な深みのある色合いに染め上がりました。今日は、草木染めを通して植物と向き合い、日頃は見過ごしがちなキバナコスモスとハルジオンから色のプレゼントも貰って、受講生は満足な様子です。自宅に持ち帰り、太陽の下で眺めたりしていると若干愛着も湧きます。
【場所】川崎市黒川青少年野外活動センター
【実施概要】講義:草木染めの歴史 染料の種類 染色の方法
実技:クチナシでバンダナを染める
【スタッフ】講師:奥村具子、中野修平
【受講生】飯塚義則、坂井晋平、鈴木康浩、西出幸子、松井紀尚
【報告者】松井紀尚
【本文】
これまで先人は、植物の持つさまざまな力を引き出し、染料や薬草として使ってきました。
草木染め研修は、森林文化の担い手として、日本人が受け継いできた感性や技術を学び広めてゆくための研修です。
研修実施場所の川崎市黒川青少年野外活動センターは、廃校になった小学校の施設を利用したものだそうで、工作室や厨房もあり草木染め研修にはうってつけの施設です。
自己紹介に続いて、先ずは講義から始めて頂きました。テーブルの上には、本日の実技で使うクチナシの実、ヌルデの虫こぶである五倍子(ふし)、キハダの内皮が置かれ、昔からの植物と人との関わりに思いを馳せる説明からして頂きました。異形の五倍子を見て、どうしてこれが薬や染料に使えることが分かったのかを考えると、先人の発見が奇跡的なことに思えてきます。
続いて、植物の色素について説明して頂きました。緑色の葉緑素は布には染まらないので洗えば落ちること、アントシア二ンは花や果実の色で、酸性で赤、塩基性で青に発色すること、植物は自分を守るためにタンニンを作ること、その他に黄色のベルベリン、青のインジゴの説明がありました。
続いて、「本日の実技で行う、クチナシの色素と染めた色の説明」、「染色の歴史」、「ヌルデという植物について、かたち、くらし(植物の成長)、増え方、人の暮らしとのつながり」、「五倍子から分かる先人の知恵と美意識」について説明して頂きました。
講義に続いていよいよ実技です。50cm角の真っ白い綿のバンダナが渡され、輪ゴムと割りばしを使って絞り染めの模様を作るための括りを行います。染料が染み込まないように輪ゴムで縛り、割りばしは同心円がきれいに出るように、縛るときの心材として使います。輪ゴムの縛り方が緩いと、染料が染み込みそうだし、縛り方が強すぎると一様にぐるぐる巻きにしてしまう結果、意図する網目模様が出ないなど、意外と難しい作業でした。同じ模様が繰り返し出るように、折りたたんでから複数枚をまとめて縛ったり、直線的な模様がでるように、スカーフの角を折って割りばしで挟む受講生の方もいました。
絞り作業が終わると、厨房に移動しました。ネットに入れたクチナシの実を、寸胴鍋で水から煮出します。出来上がった染液の色は、クチナシの実の色と同じ、茶褐色(あるいは濃いオレンジ色)でした。
染液の温度が下がるのを待つ間、クチナシ茶を頂きました。ジャスミン茶に似た香りがあり、ほのかに甘い味と感じました。ストレス軽減、リラックス効果の効能があるそうです。
たらいに移していた染液の温度が、手を入れられる程度まで下がったところで、いよいよ染色です。染液に漬からせて、ゆらゆらと揺すりながら染めていきました。今回の染料、生地とも、よく染まりやすいとのことで、一回目の染色は2分程度で終え、軽く水洗いをしてから媒染液の中に入れます。媒染液はミョウバンを溶かしたもので、金属イオン(アルミニウムイオン)によって、染料を繊維に定着させる働きがあります。媒染液から出して水洗いしたあと、二回目の染色を同じ手順で行いました。2回の染色を終えてから、輪ゴムの縛りを解き、もう一度水洗いをして完了です。受講生の作品を並べて干し、出来栄えを鑑賞しました。
クチナシで染めたバンダナは、黄色というだけでは言い表せない、落ち着いた上品な色だと思います。梔子色、支子色、山吹色、言わぬ色(口がないから)と呼ばれてきました。
平安貴族は、「三月(やよい)のつごもりなれば京の花盛りは過ぎにけり山の桜はまだ盛りにて」の季節に、山吹襲(かさね)(表が朽葉色(オレンジ)裏が山吹色)の衣装を着ていました。今回の作品を見ていると、繊細な季節感を衣装の色で楽しんでいた平安時代の雅な世界を想像し、クチナシという植物が身近に感じられるようになりました。次回以降の草木染研修が楽しみです