2022年度  野外研修実施報告


12月18日(日)「春の七草の寄せ植え」

 

【タイトル】春の七草の寄せ植え

【実施日】2022年12月18日(日)9:30〜12:00

【場所】ウィズチャイルドこどもリビング(京王線聖蹟桜ヶ丘徒歩5分)

【概要】春の七草の種類と見分け方、モウソウチクで作る寄せ植え鉢の作り方、育て方と水やりに関して等を学んだ。

【講師(敬称略)】遠藤 正(FIT会員)

【参加者】FIT会員5名

【報告】加古明子

【写真】遠藤正・加古明子・小勝眞佐枝

 

【本文】

実施場所となった「ウィズチャイルドこどもリビング」は多摩川沿いの開放的な空間。学童保育を中心に、心地よい子どもの居場所をテーマとする民間施設で、講師の遠藤氏が「遊びの達人」として関わっていることから、場所をお借りしての開催となった。

 

まずは庭の一角の野草を前にしての、春の七草探し。春の七草とはセリ、ナズナ、ゴギョウ(ハハコグサ)、ハコベラ(ハコベ)、ホトケノザ(シソ科のピンクの花を咲かせるホトケノザではなく、キク科のコオニタビラコ)、スズナ(カブ)、スズシロ(ダイコン)。寒いこの時期、ロゼットになっているものも多く、見つけるのはなかなかに難しい。

「ナズナは個体差が大きい」「ゴギョウはチチコグサモドキやウラジロチチコグサが優勢となって入手しにくくなっている」「コオニタビラコは葉に黒ゴマの様なつぶつぶ模様がある場合が多い」「セリは20〜30年前は一番入手しにくかった。なぜなら食用に採取したから。しかし現在は採取する人がいないので、急速に増殖している」などの解説を受ける。

  (写真は、ウイズチャイルドさんの畑で、七草探し。)

続いては寄せ植えの鉢作りに関して。我々の研修用にご用意くださった太いモウソウチクは、竹林から切り出してくるところからの作業とのこと。数本の太いタケがのこぎりとオノでみるみるうちに植木鉢になっていく過程を見せていただく。竹林も減り、残された竹林も手入れされているところは少なくなり、それに伴って竹細工の職人もいなくなり、のこぎりの目立てをしてくれるところもなくなり、などという現代タケ事情を聞きながら。

 

そしていよいよ植え付け作業。寄せ植え鉢に半分ほど腐葉土を敷き、そこに種類ごとに用意された苗床から、各自が一つずつ7種類を選んで植え付ける。並べる順番は「水との関係」で決まっていて、水を最も好む草を中心にもってきて両端にいくほど水が少なくてすむものを植える。従ってその順番は「スズナ、ゴギョウ、セリ、ホトケノザ、ナズナ、ハコベラ、スズシロ」となり、水は表面が乾いたらセリとホトケノザの間に注ぐとの明快な解説。 

 

さて、この後ですが「お正月の七草がゆに使うには少し早い。なぜなら旧暦の七草は来年は1月28日なのでそれまでは水やりをして育てるのがおすすめ。スーパーで七草パックを購入して、何の葉か食べる前に同定用に使ってはどうでしょう。また4、5月まで育てれば花を見ることもできるし、それを天ぷらなどにしてもおいしいです」とのこと。

講師の遠藤氏は春の七草の寄せ植えを40年ほど前に始め、今では毎年200鉢ほどを作って知人、友人に配り毎年喜んでいただいているそうだ。お話はクワやカイコ、昆虫食やSDGSにまで及び、熱量溢れる尽きない話を伺うことができた。 

 

おまけは目の前の多摩川に2週間ほど前から滞在しているという「ヒメハジロ」という潜水採餌ガモ。北米に広く分布し、日本には稀な冬鳥として飛来。東京に現れたのは初めてということで大勢のバーダーが集まっていて、なんともラッキーな出会いだった。

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12月10日(土)「冬芽観察入門」

【場所】国営昭和記念公園

【実施概要】冬芽観察入門

【参加者】21名

【講師】臼井治子(FIT)、高橋喜蔵(FIT)

【スタッフ】小勝眞佐枝

【報告者】氏家清高(臼井班)

 【本文】

当日は晴天で早朝は寒かったが次第に温かくなり、観察会としては絶好の日であった。参加者は昭和記念公園の西立川ゲート前に9時30分に集合。全員が集まったところで開会式を行う。まず、講師2名とスタッフの紹介後、参加者が自己紹介を行う。開会式終了後、西立川ゲートより公園内へ入場し、2班に分かれて研修を開始した。

初めに資料に従い冬芽の用語ついて解説を受け、冬芽観察に出発。

    (写真は冬芽の基礎知識の解説。高橋班)

(観察した主な樹木)

イヌビワ:雄花(花嚢)の虫えい花、イヌビワコバチとの共生

メタセコイヤ:発見から日本でのメタセコイヤ植林の経緯を解説していただく

キウイ:半隠芽(講師持参)

イイギリ:葉が落ちた後の赤い実が目立つ

ヤマブキ:皆さんで並生副芽を探す

ヌルデ:馬蹄形の葉痕が面白い

    ヌルデシロアブラムシによる虫こぶ(タンニンが豊富)

イロハモミジ:鱗芽、仮頂芽

ソメイヨシノ:芽鱗に毛がある(毛のないオオシマザクラとの比較)

ドウダンツツジ:混芽(側芽なし)

ミズキ:鱗芽(互生)

クマノミズキ:裸芽(対生)

クズ:葉痕が顔の形でユニークである(講師持参)

オニグルミ:裸芽、頂芽に雌花、髄に隔壁(講師持参)

マユミ:鱗芽(講師持参)

イチョウ:短枝が長枝に変化することがある

クサギ:裸芽、U字型の葉痕

アメリカスズカケノキ:葉柄内芽

トチノキ:頂芽が赤くキラキラ光っている

                                  (写真は、メタセコイアの解説。臼井班)

西立川ゲート周辺エリアでの観察であったが、数多くの樹木の冬芽や樹木の特徴などを観察し、研修は無事12時に終了した。日頃見落としがちな冬場の樹木との付き合い方を学ぶことができた。スタッフおよび講師のみなさんありがとうございました。

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12月3日(土)「植物標本作成入門講座」

 

 

【実施日】2022年12月3日(土)8:30~12:00頃

【場所】東京都立大学 牧野標本館別館

【概要】植物標本作りの基礎を学んだ。植物を採取するときの  ポイント、注意点、標本の作製手順、標本ラベルの書き方まで勉強した。

【講師】加藤英寿 先生 東京都立大学 理学部助教

【参加者】FIT会員15名

【報告者】菅原耕

 

【実施報告】

 都立大学内、牧野標本館別館にて植物標本作りの基礎を学んだ。牧野標本館は、日本の植物分類学の草分けともいえる故牧野富太郎博士が収集した植物標本を収蔵する標本館である。

 講師の加藤氏の案内のもと、大学内を散策。標本用植物採取のポイントや注意点を学んだ。植物を採取する際、その行為によって、その植物をその場から消滅させてしまうことが無いように、個体数や生育状況をよく確認することが重要である。採取した植物は新聞紙にはさみ、マジックで採取年月日、採取場所、採取者名を新聞紙に必ず記載する。採取場所の特定が難しい場合、GPSやスマートフォンなどを用いることで、採取場所の位置情報を正確に記録することできる。オフラインで地理院地図上に現在地を表示・記録できる「Avenza Maps」というスマートフォンアプリも教えてもらった(https://avenzamaps.jp)。

  

 実際に加藤氏が作成中の標本を見せてもらうこともできた。採取した植物は新聞紙に挟み込み、吸水紙などを交互に挟んで圧搾・乾燥することで、数日後に標本が完成する。完全に乾燥していないものは葉などがしんなりと垂れ下がるので、そうならないまで十分に乾燥させる。ただし、特に常緑樹や水分を多く含む多肉質の植物などは、それだけでは十分に乾燥できないこともある。その場合はふとん乾燥機などを使用することで急速に乾燥させる方法もあるが、標本が縮れたり変色しやすいとのこと。

(写真は作成中のロゼットの標本)

 標本を所蔵する保管庫の見学もさせて頂いた。牧野標本約16万点を核として、本学教員・学生が収集したものや、世界各地の標本館との標本交換で得られたもの、個人・機関からの寄贈品をあわせて50万点以上を所蔵している。特に印象に残ったのが、江戸時代に来日したシーボルトの収集した標本である。フクジュソウの標本を見せて頂いたが、150年以上が経過しているとは思えない保存状態と美しさに感動を覚えた。

 ほかにも企画展示のスイカ、キュウリなどの標本の出来栄えが素晴らしく、特にスイカの果肉の赤さは目を引くものであった。

 加藤氏からは、ぜひ標本を作成し、可能であれば寄贈してもらえたら嬉しいとの話もあった。寄贈する植物は珍しいものである必要はなく、ありふれた種で構わないとのこと(外来種でも可)。ありふれた種では役に立たないのではないかと思ったが、どこにでもある種こそ、標本が不足しているそう。多くの方々はどうしても珍しい植物に目がいってしまい、普通種の採取は疎かになりがちだと言う。標本作り用の道具の紹介も頂いたので、簡単な標本作りからトライしてみようと思った。

 2023年春には牧野富太郎博士をモデルにした朝の連続テレビ小説「らんまん」が放映予定。番組の視聴が俄然楽しみになってきた。

 

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10月10日(月・祝)「神代植物園公園の魅力を探る」

【実施日】2022年10月10日(月・祝)

【実施概要】神代植物公園のバラ園・温室を中心にバラや熱帯植物を学んだ

【場所】神代植物公園

【参加者】午前、午後の部 合計16名

【講師】飯田有貴夫(FIT・元神代植物園長)

【幹事】高橋喜蔵(研修部)

【報告者】得能寿子

【本文】

講師に元神代植物公園長の飯田有貴夫さんを迎え、「秋のバラフェスタ」開催中の植物公園を、世界バラ会連合優秀庭園賞受賞のばら園と大温室を中心に巡りました。

(写真はバラの香りの抽出についての説明を聞く。)

 野生種・オールドローズ園では現在のバラ品種の元になった野生種・オールドローズを栽培している。世界のバラ野生種の約150種のうち、18〜19世紀以降、9種ほどが現在の栽培品種(現代バラ)への改良に使われた。四季咲きの形質は中国産のコウシンバラから、日本野生種のノイバラからは房咲きの形質、テリハノイバラから蔓性の形質が取り入れられた。また、西欧のバラは甘くて濃厚な香りが特徴であるが、これはダマスクローズの系統を受け継いでいる。そこへ中国産のコウシンバラとロサ・ギガンティアから受け継がれた、紅茶の香りのバラが西欧に持ち込まれ、より多様な香りのバラが生まれた。余談であるが、ダマスクローズの花弁から分泌される香りを濃縮したローズオイルは、バラの花2600個から1mlしか抽出されないそうだ。ばら園本園は400種の四季咲きの現代バラが栽培されており、色とりどりのバラの甘い香りに包まれる。このように400種のバラの見頃を揃えるためには、「春から晩秋まで咲き続ける」四季咲きのバラをバラフェスタに合わせて剪定し、新しいシュートを育てる作業が必要との事。根元が苔むした古い株や作出年が古い品種も多く、大切に手入れされているバラ園であることがよくわかる。

(写真は沈床式庭園のバラと大温室を望む。)

 バラ園に続いて、大温室へ。亜熱帯・熱帯の植物が中心であるが、中でもベゴニア室が圧巻であった。栽培されているベゴニア園芸品種は、熱帯の高地の冷涼な気候に合わせた環境で、気温と長い日照時間のコントロールにより鮮やかな大輪の花を長期咲かせている。こちらも原種の展示があったが、形質は大きく異なり、品種改良の技に驚いた。

色とりどりの花に目を奪われるが、植物公園ならではの、見せ方の工夫も興味深かった。球果が観察できるよう低い位置の枝をあえて残したヒマラヤスギ、ヤグラ仕立てのフジ、目の高さで花を観察できるようバスケット仕立てのまるでサルの顔にも見える着生ランのドラクラ・ギガスなど。(写真は大温室入口)

 広い植物公園の中で、ポイントを絞った研修だったが、品種改良の話、植物の維持や展示の工夫、他の植物園との比較も交えて、植物公園ならではの話題がとても興味深く、植物公園の役割についても再認識した会でした。

 

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9月14日(水)「火起こし体験と花炭つくり」

 

【実施日時】2022年9月14日(水)9:30~12:30

【主催】森林インストラクター東京会 研修部会

【場所】川崎市黒川青少年野外活動センター

【講師(敬称略)】藤田冨二(FIT)、藤本誠一(FIT)

【参加者】10名(FIT会員及び友の会会員)

【スタッフ】FIT研修部 小勝眞佐枝、高橋喜蔵

【報告者】ニレの会(R2)室伏憲治

 

(写真は麻ひもをほぐし、自分の火口を作っているところ。)

 

 最初に座学として、火種の作成方法は「きり揉み式」、「紐ぎり式」、「弓ぎり式」があり、火種の出来やすい樹木として共通しているのは、木の構造が中空あるいは髄があること(樹種としてウツギ、キブシなど)で、中空になっていないと木の中心が残り、火種が出来にくいことを学ぶ。全員での実技は「紐ぎり式」の火起こしで二人一組で行う。実技前に火口(ほくち)作りとして、麻ひもをほぐし、各自で鳥の巣のように円形で真ん中を軽く押さえ、そこに更に火が付きやすいようにガマの穂の小片を入れておきました。

 

写真は「紐ぎり式」火起こし。二人一組で行う。)

①火きり杵(軸棒)

②ハンドピース(軸受け)

③火きり臼(台板)

④火口(ほくち)


 火起こし道具の部材として、①火きり杵(軸棒)、②ハンドピース(軸受け)、③火きり臼(台板)、④火口(ほくち)となり、①まず軸棒である火きり杵にひもを二重に巻き付けて、ひもを交互に引き合うと火きり杵が回転し、火きり臼との間で強い摩擦が生じる。②ハンドピースは火きり杵の天辺に被せて回転する火きり杵がブレないように安定させる(2㎏ほどの加重で)、③火きり臼は三角形の切り込みがある板(杉材が適している)で中央の穴に火きり杵を立たせる。三角形の切り込みがあるので強い摩擦と熱で削れて高熱の真っ黒い粉になり落ちる。

 

 ポイントとして、ハンドピースは両手でしっかり持ち、火きり杵を火きり臼に押し付けること⇒火きり杵をひもで交互に引いて30回程度回転させる⇒もくもくと煙が出てくるまで続ける。三角形の切り込みからこぼれ落ちる真っ黒な粉が火種となり、④火口で受けて息を吹きかけて火種を大きくしてから、発火用の棒の先に火種の入った火口を付けて大きく回すと炎となる。全員での実技の最後に講師が一人で火起こし出来る「弓ぎり式」や希望者による「きり揉み式」も行いました。「弓ぎり式」の火起こし検定では30秒発火で1級、45秒発火で2級が取得できますとのこと。

(写真は火起こし成功!全員が体験しました。)

 「花炭つくり」としては、四角いブリキ缶の中に松ぼっくり、栗の実、胡桃、輪切り乾燥した夏みかんなどを入れて蓋をして針金で締めておく。焚き火の引火には「紐ぎり式」火起こしで出来た炎を使って行いました。大きな焚火状態にしておき、その上にブリキ缶4つを置き、途中で缶から煙が出てきて消えるまで(炭化)約20分ほどで火から下し、その後冷やすこと約15分ほどで綺麗な花炭が出来上がりました。参加者みんなで小分けして持ち帰りました。私は自宅の玄関に飾り付け(消臭を兼ねて)ました。

                                               以上

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9月10日(土)「シダ研修」(奥多摩編)

 

【実施日】 2022年09月10日(土) 天候:曇り

【実施場所】 奥多摩氷川渓谷・登計トレイル周辺

【研修目的】 主なシダ38種類を楽しんで学ぼう

【参加人数】 14名 

【講師】 仲田晶子(FIT)・中西由美子(FIT)

【スタッフ】 奥村具子・高橋喜蔵

【報告者】 丸山正

 

【研修内容】

 朝9時30分に奥多摩に集合し、奥氷川神社で開会式を行い、その後仲田班・中西班に別れる。

 まず、シダ同定のポイントの説明を受ける(葉身の先端・中軸・葉柄・最下羽片・胞子・鱗片など)

(写真は仲田班 シダの基本を説明)

 観察初めの10種類位は、理解出来ましたが午後になって観察してきたシダの復習では頭がこんがらがってわけワカメ状態です。

 それでも、7~8種類位は覚えたつもりです。

 

 お昼に各種ソーラスの特徴を顕微鏡でチェツクしました。

 シダ以外ではアケビコノハ(蛾)、トラマルハナバチ、植物でツクバネとマタタビの果実に出会うことが出来て印象に残りました。

 

15:00頃の奥多摩駅で振返りでは、多くの参加者がもっとシダを学びたいと言ってました。

 

 (写真は中西班 実物を使ってシダ入門座学)

 

                          

<観察したシダのリスト>

 ノキシノブ、ヒメノキシノブ、コバノヒノキシダ、マメヅタ、オオバノイノモトソウ、ベニシダ、オオベニシダ、オオイタチシダ、イヌシダ、イワトラノオ、イノデ、イワガネゼンマイ、オオハナワラビ、コウヤコケシノブ、エビラシダ、ウチワゴケ、ハコネシダ、ジュウモンジシダ、キヨタキシダ、クマワラビ、オクタマゼンマイ、ゼンマイ、ゲジゲジシダ、ハクモウイノデ、イヌワラビ、ワラビ、ハリガネワラビ、ヒメワラビ、ヘビノネゴザ、ヤワラシダ、イヌガンソク、キヨスミヒメワラビ、リョウメンシダ、ヤマイヌワラビ、クジャクシダ、シシガシラ、イワヒバ、シノブ等

 

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8月20日(土)「クモと環境」(横沢入)

 

【実施日】8月20日(土) 9:50~14:30

【実施場所】  あきる野市・横沢入

【参加者】   13名

【講師】    新井浩司 氏(東京蜘蛛談話会)

【スタッフ】  高橋喜蔵

【報告者】   田中和江(R3 みきの会)

【研修内容】

「クモの生態を学ぶ」の研修が6月18日に行われた。それに引き続いて2回目の研修となる。「クモ」=気持ち悪い、見たくない、巣を張る厄介者 のイメージしかなかった。6月の研修を受けたみきの会のメンバーから「世界が変わったよ。」と目をキラキラと輝かせて訴えられ、本当かなと気乗りはしなかったが申し込んだ。

<写真はクモを探しているところ>

 

今回の中心が「トリノフンダマシ」であった。とりあえず、調べてみようと色々見ると、腹部(名称はあとで知った)が丸く盛り上がり、模様のように見える。この写真を見たときに、意に反して「かわいい」と思った自分に驚いた。少し積極性が生まれた気がした。

 

場所は武蔵増戸駅から歩いて20分の横沢入拠点施設。開会式後、クモの基礎説明を受けた。肉食であり、しっかり生態系の中に組み込まれた消費者であり、益虫(昆虫ではないが)の性質を持つことも知った。

 

<写真は、ススキの葉裏などを見て、トリノフンダマシ類を探しているところ>

 ここは霧が多く湿度が高く、トリノフンダマシ、オオトリノフンダマシ、シロオビトリノフンダマシ、アカイロトリノフンダマシの4種が見られる貴重な場所である。トリノフンダマシはコガネグモ科に属し、鳥の糞に見えることからその名前が付いた。夜行性で夜になると網を張る。この網は乾燥に弱い。湿度90%以上でないと張らない。目は粗く横糸は大きくたるむ。網の横糸の粘球は大きくさらさらとしていて、主たる餌となる蛾の鱗粉に染み込みやすく逃げられないようになる。かかると横糸の片側が切れ1本の横糸に宙吊りになり、それを手繰り寄せて捕える。メスは成熟するとフェロモンを出し、オスは肢の感覚器官で感知し、たどってくるらしい。8月は産卵期で卵嚢を作ることが多い。秋の前にはできる。孵化した子グモはその後枯葉の隅などで過ごし、冬にはあまり網を張らず休眠し仮死状態で越すこともある。

 

 実際に探してみると、研修生はなかなか見つけられないが、環境や生態をよく知る新井先生はすぐに見つけ出す。この辺りとか、この葉の裏など探す場所が的確である。小さくても見つけられる。プロの目。トリノフンダマシを初めて見て感動。卵嚢もトリノフンダマシとオオトリノフンダマシでは形や大きさが異なることも確認できた。

観察したクモは次の通り。

 

ワキグロサツマノミダマシ、トリノフンダマシ、オスクロハエトリ、ナガコガネグモ、スジブトハシリグモ、シロオビトリノフンダマシ、キクヅキコモリグモ、ウヅキコモリグモ、オオトリノフンダマシ、マミジロハエトリ、ササグモ、カラスゴミグモ、ジョロウグモ、アカイロトリノフンダマシ、クワガタアリグモ、イナダハリゲコモリグモ、ハナグモ、アシナガグモ、クロマルイソウロウグモ、ギンメッキゴミグモ 他に講師のみ確認した数種あり。

 

 クモの研修を通して、すべての生物に対して「かわいい」は連発できないが、少なくとも視点が変わったことは間違いない。知らないことは損だなと感じる。拡大鏡で見た姿に鳥肌を立てながら、興味深い内容や環境に即した生態には学ぶべきことが多かった。自身の観察の視点に変化を与えてくれたことに感謝である。

 

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6月18日(土)「クモの生態を学ぶ」(横沢入)

【実施日】6月18日(土)9:50~14:00

【場所】  あきる野市 横沢入

【実施概要】この時期に観察できるハシリグモ類を           中心に、クモの生態を学ぶ。

【参加者】 14人

【講師】  新井浩司 氏(東京蜘蛛談話会)

【スタッフ】小勝眞佐枝

【報告者】 早川一二(R3)

【研修内容】

 クモといえば、クモの巣が顔一面にべったりくっ付いて難儀したことぐらいで、クモをじっくり観察した記憶がない。今日は、このクモの生態を学ぶために、あきる野市の「横沢入」に来た。

  横沢入は、7つの谷戸から構成される里山で、田んぼや畑が放棄され、自然が荒れていたが、都の保全事業により田んぼが復元され、地域の方々の力で里山の風景をとり戻しつつある。

 10回目を迎えた「クモの生態を学ぶ」の講座には、クモに魅せられたベテラン会員が多く,長靴を履き、クモを捕獲するシャーレも多数持参、この講座を楽しみにしていたことが伝わってくる。

 

9:50 始めに新井講師からクモに関する基礎知識を学ぶ。

節足動物門の中で甲殻類、昆虫類 と並び クモ鋼(コウ)その他に分類されている。クモ鋼は、さらにクモ目に分類され、近縁生物として、サソリ目、ダニ目 などが入る。脚は8本、体は2つ 目は8つ 糸を出す。世界で50,000種 日本で1,700種ほど知られている。クモは地上で最も数の多い肉食動物で、捕獲した昆虫を糸で絡め、毒で麻痺させてから、消化液を出して体内のたんぱく質を溶かし吸引して栄養にしている。網を張って捕獲するクモ類は6割、それ以外が4割になる。日本のクモのほとんどは毒性が弱く、万が一巣の内側に入り込んでも、一匹のクモから攻撃を受ける程度のもので、スズメバチのような集団で襲う状況とは危険度がかなり低い。(在来の99%のクモは、人に影響の無い位の弱い毒ですが、残り1%は一匹のスズメバチに比べ毒性の強弱はつけがたいとの事)。

 またクモを食べる「クモ食いクモ」や、ベッコウバチのようにクモを食べるハチもいることも紹介された。次々にでる質問を丁寧に解説する新井講師のクモに対する熱い思いを感じとれた。

 目的地までのわずか1キロたらずを1時間超のスローな観察ペースであったが、だれも気に留めず、クモを見つけては、図鑑片手に同定がはじまる。めずらしい種は、情報共有のためシャーレに採集した。目的地の池の周りでは、モリアオガエルの巣、マルタニシ、ゲンジボタルなどが見つかった。

 

11:50 横沢入拠点施設に戻る。昼食を早々に済ませ、シャーレに捕獲したクモの解説が始まる。図鑑と見比べながら特徴を確認する。

 

12:50~ 午後の観察会を再開

クモの生息場所の特定にも慣れ、見つけるクモの種類も断然多くなる。

クモの生息環境がよいところでは、他の種の絶滅危惧種も見つかることが多いと話された講師の言葉どおり、絶滅危惧種に近い「ババハシリグモ」を見つけた近くの池で珍しい「イチョウウキゴケ」を見つけることもできた。

 

13:40 閉会式 もっと観察したかった!の顔が並んでいました。

初参加でしたが、新井講師の「クモ愛」にあふれた解説のもとで、「クモ」が身近な生き物に感じられるようになりました。日本の原風景にある里山を横沢入で垣間見た一日でした。

 

その他、見つけたクモ種

メキリグモ、クサグモ、コシロカネグモ、ヤリグモ(クモ食いクモ)、ヤサアリグモ、カラカラグモ、ヤギヌマフクログモ、オナガグモ、ヤマヤチグモ、アオオビハエトリ(アリ専門に食べる)、クスミサラグモ、アシナガサラグモ、チクニエビスグモ、クロココモリグモ、カラスゴミグモ、オスクロハエトリ 等。

 

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6月8日(水)「シダ研修会」(神武寺)

 

【実施日】6月8日(水)10:00~15:00

【場所】逗子神武寺

【実施概要】初心者のためのシダの勉強会

【参加者】20人

【講師】仲田晶子氏、中西由美子氏、藤田冨二氏(FIT)

【スタッフ】高橋喜蔵、小勝眞佐枝

【報告者】入江克昌  (H27)

 

【研修内容】

 JR横須賀線東逗子駅に集合し、駅前で開会式を行い、班毎に神武寺に向かいました。いつ雨が降り出してもおかしくないような曇り空の下、観察会はスタートしました。

 神武寺参道に入ると、図を見ながら、シダの各部位の名称や生活環に関する説明を伺いました。             (写真は仲田班のシダの基本説明)

 

その後は、シダを1種1種観察しながら、夫々の特徴や同定の仕方を教えて頂きました。

 先ずは葉の見た目と手触り。次に葉身・羽片・裂片・葉軸・葉脈・鱗片の形や色の違い、またソーラス(胞子嚢群)と包膜の有無や形・色・付く位置などで、見分けていくとのことでした。また自分自身で同定のポイントを持つことも大切との話がありました。

 

よく似たシダを比べながら、覚えていくのも一つの方法で、例えばオクマワラビとクマワラビ、ベニシダとイタチシダ、フモトシダとフモトカグマ、イワガネソウとイワガネゼンマイ、イノデとアスカイノデ等を観察しました。

 

神武寺ではホソバカナワラビが群生していますが、根茎から生える葉と葉の間が広く、また根茎が縦横無尽に這っています。一方、イノデ類はバトミントンのシャトルのような形に葉が生えていますが、根茎から生える葉と葉の間が狭く詰まっているためにそのような形になります。

 

(写真は藤田班の観察風景)

 

 

  その後次から次へと様々なシダを観察して、薬師堂前で昼食をとりました。

 心配していた空模様も、昼前から晴れ間も見えるようになっていました。

 昼食後は実体顕微鏡でシダのソーラスを観察しました。タイミングによっては胞子嚢から胞子が弾けて飛び出すところまで見ることが出来ました。

 

 午後は、壁一面のヘラシダの群生に驚きました。その後、崖のところで

小さいハート形の配偶体(前葉体)と若い胞子体を見ることが出来ました。

 

 シダ以外では、ケイワタバコの花、ホルトノキ、フウトウカズラなどを

観察し、色鮮やかなハンミョウにも出会うことが出来ました。

 

 合計33種のシダを観察して、15時頃東逗子駅に無事到着し、各班振返り後

解散しました。

 

(写真は、沢沿いの道を下る中西班)

 

 今後は教えて頂いた同定のポイントをよく頭にいれて観察を繰り返し、少しでも識別できるシダを増やしていきたいと思います。楽しく充実した一日となりました。

 講師の皆様、研修部会の皆様には大変お世話になり、ありがとうございました。

 

(上述のシダ以外に観察したシダ)

リョウメンシダ、イヌワラビ、ホシダ、ミゾシダ、ジュウモンジシダ、ホウライシダ、

ミツデウラボシ、ゼンマイ、ゲジゲジシダ、コモチシダ、ヤブソテツ,タチシノブ、

オリヅルシダ、マメヅタ、ヒトツバ、ホラシノブ、ウチワゴケ、ノコギリシダ、ハイホラゴケ

カニクサ、ノキシノブ、イノモトソウ

 

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6月1日(水) 「磯の生き物入門」

【実施日】2022年6月1日(水)9:50~14:00

【場所】神奈川県葉山町芝崎海岸

【研修テーマ】磯の生物に会い、生物多様性を実感する。

【講師】高橋喜蔵 氏(FIT)

【受講者】6名

【報告者】浅井記子(R1)

【研修内容】

天気は晴と言っても暑さはそれほどでもなく過ごしやすい観察会となった。JR逗子駅に集合、バスで葉山の芝崎海岸へ向かう。コンクリートの防波堤の向こうに広々とした磯が広がる。芝崎海岸は岩礁、転石(ごろた石)、砂地、砂礫など様々な地形が広がりそれぞれに適した多種多様な生物が生活している。

 

今回の研修ではこの転石地帯の潮間帯(満潮時は海面下、干潮時は海面上になる場所)生物を観察する。身支度をして歩き始めると小さな生き物が石の下に入り込むのが目に入る。ヒライソガニである、2cmぐらいの雄から卵を抱える雌までいる。海藻を身につけたイソクズガニ、ハサミが大きく足が3対のイソカニダマシも見つかる。岩に張り付くカメノテ、マツバガイ、イワガキ、膝頭を思わせるヒザラガイ、フジツボ、水中の岩陰にはクロウニ、ムラサキウニが並ぶ。

 

(写真はマツバガイ・しっかりと岩にしがみ付いている。)

水中を素早く泳ぐイソスジエビが網に入る。海水につかる石をひっくり返すとヤツデヒトデ、二ホンクモヒトデが張り付いている。貝殻の破片を身にまとったヨロイイソギンチャク、色鮮やかなアオウミウシはオレンジ色の触覚とエラが青い体に映える、クロシタナシウミウシもいる。色は黒いが触覚とエラが認識できる。突然足元の海水が赤紫色に染まっているのに気づく。踏まれたタツナミガイが威嚇するために上部の穴から液体を噴出したようだ。水中を探すと手のひらサイズで丸く盛り上がった生物がいた。色は灰色がかった緑色、ずっしりと重い。クロナマコも見つかる。石の裏側にはアメフラシの卵のう、ウミゾウメンが張り付いている。ルーペで見ると小さな卵が並んでいる。岩の間からはヒジキ、ウミウチワが生えている。昼食をとった近くの岩の上にはハマヒルガオ、ハマボッス、テリハノイバラが花を咲かせていた。

タイドプールをのぞき込むとヤドカリが小さな足を動かしている。まだまだたくさんの生き物が見つかりそうだが、干潮時を利用しての観察を切り上げて本日は終了となった。潮風に吹かれながらたくさんの磯の生物との出会いが収穫となった。

 

観察した動物・植物

節足動物:ヒライソガニ、クロフジツボ、イソスジエビ、オウギガニ、イソカニダマシ

刺胞動物:ヨロイイソギンチャク、タテジマイソギンチャク

軟体動物:マツバガイ、ウノアシガイ、イワガキ、ヒザラガイ、キクノハナガイ、クロシタナシウミウシ、

アマオブネガイ、アメフラシの卵のう(ウミゾウメン)、オオヘビガイ、アオウミウシ、タツナミガイ、トコブシ、ボウシュウボラ、タカラガイの仲間、アラレタマキビ、ミスガイ、イシマテガイ、バテイラ、ウミニナの仲間 注)タカラガイの仲間は流れ着いた貝殻。イシマテガイは貝が住むため水成岩に開けた穴の跡

棘皮動物:クロウニ、ムラサキウニ、バフンウニ、ヤツデヒトデ、二ホンクモヒトデ、クロナマコ

環形動物:ゴカイ

褐藻植物:ウミウチワ、ワカメの根元(胞子葉)、ヒジキ

海浜植物:ハマボッス、ハマヒルガオ

その他:テリハノイバラ

 

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5月28日(土) 第2回「野鳥研修~高尾山で夏鳥を聞こう~」

【実施日】2022年5月28日(土)

【場所】日影沢~城山~一丁平~高尾山

【研修テーマ】歩きなれた高尾山で、夏鳥の声を聴き、楽しみながら、いろいろな鳴き方があることを理解する。主として声による野鳥観察と識別方法に慣れる。

【講師】吉原邦男 氏(FIT)

【スタッフ】高橋喜蔵

【受講者】11名

【報告者】鈴木幸代

【研修内容】

<実施概要>

前々日に降った雨の為、日影沢の水量が多く、沢の音がいつもより大きい。沢からなるべく離れ、話は厳禁、そして鳥たちの声を聞くことに集中。

夏鳥研修の資料に目を通し、識別方法を学ぶが、出会いはほとんど”運”という。

 

今回はキビタキとオオルリの鳴き声に慣れることを目標に日影林道を進む--と、ポンプ場で遠く明るく空が開けた大木の枝にオオルリを発見。逆光で色がわかり難いが、じっくり観察できた。

萩原作業道入口付近では目の前の木にガビチョウの姿。キジバトが怖がる様子もなく道を歩いている。その後も沢山の野鳥の声があちこちから聞こえ、盛沢山。講師が止まると、全員が声の主の方をその動きを少しでも見逃さなように目を凝らす。 双眼鏡を駆使し、誰かの”いた!”の声に一気に活気づく。

城山山頂を超え、一丁平付近では数メートル先でガビチョウの縄張り争いを見学。

 

----そしてついに巻道でキビタキに遭遇!お腹の鮮やかなオレンジ色がくっきりとわかる。何を考えているのか時々毛づくろいをしている。野鳥の世界にちょっと足を踏み入れたような気がした。

 

今回はどうやらとても“運”が良かったようで、27種の野鳥たちの声を聴き、またそのうち12種の姿が確認できた。

 

声で識別は至難の業---、個体の違いもあるのだろうが、きっと野鳥たちのその時の気分の持ちようで変わってくるのではとも思う。人間と同じく、野鳥たちの世界もきっと大変なのだろう---。

 

【鳴き声のみも含み確認できた野鳥--27種】

アオゲラ、アカゲラ、イワツバメ、ウグイス、オオルリ、カケス、ガビチョウ、キジバト、キビタキ、クロツグミ、コゲラ、コジュケイ、サンショウクイ、シジュウカラ、センダイムシクイ、ツツドリ、ツバメ、トビ、ノスリ、ハシブトガラス、ヒガラ、ヒヨドリ、ホオジロ、ホトトギス、メジロ、ヤブサメ、ヤマガラ

(内、姿が確認できた野鳥--12種)

イワツバメ、オオルリ、ガビチョウ、キジバト、キビタキ、ツバメ、トビ、ノスリ、ハシブトガラス、ヒヨドリ、メジロ、ヤマガラ

 

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5月21日(土) 「小泉現地ゼミⅡ『鳩ノ巣渓谷

【実施日】2022年5月21日(土)10:30~15:00

【場所】奥多摩・鳩ノ巣渓谷

【研修テーマ】地質・地形と植物の関係

【講師】小泉武栄 先生(東京学芸大学名誉教授)

【スタッフ】高橋喜藏 小勝眞佐枝

【受講者】19名

【報告者】早川一二(R3)

 

<実施概要>

   雨脚が激しくなるにつれ、車内は登山者の雨支度がはじまり、ざわざわした雰囲気の中、鳩ノ巣駅に到着。幸いにも集合時刻には傘もいらない程度の小雨に変わっていた。

 主幹事の小勝さんの挨拶に続いて、講師の小泉先生より、鳩ノ巣渓谷は、日本列島が太平洋プレートの沈み込みにより隆起してできた硬いチャートが、断層によって境目のチャート岩石が細かく砕かれ浸食されてできた渓谷であることが解説された。

 

10:30 渓谷が一望できる場所まで移動。

 

  切立った深い渓谷の誕生は、両岸が硬いチャートのため浸食が少なく、境目に沿って徐々に深さを増す一方で、渓谷の中の広く開けた場所は、粘板岩や泥岩の地層のため両岸の浸食が進んだと推測される。対岸にチャートのすべり面(断層面)の一部が露出した鏡肌の斜めの大岩面が見られた。感動のあまり様々な質問が飛び交うが、小泉先生から最後にひと言「掘ってみないと解らないことだらけです!」。

 

  

  ここで「地質・地形と植物の関係」に話が移る。渓谷の両岸には、カエデ類とツガが多く、ケヤキも見られる。ケヤキの本来のハビタットは、武蔵野台地ではなく、このような水辺の近くで岩石がある場所にあると解説を受ける。目の前のチャートでできた渓谷の植生が中段から下部に乏しい原因は、近々では2019年の台風で渓谷の狭い部分に流木が挟まって上流部の水位が増し、植生が失われたとのこと。渓谷に降りる登山道周辺が砂で覆われていたのも、洪水の爪痕と納得ができた。

 

  いったん駅に戻り、小雨を避けながら昼食。12:30より再開

 

  大楢峠への林道を1時間ほど歩き、対岸に見える越沢バットレス付近まで移動する。途中の民家の擁壁にチャートの小岩片が利用されている。林道沿いの法面でところどころ丸太の土留めが崩壊している場所を観察。「みずみち」と思われる丸い穴が散見される。土壌にしみ込んだ雨水が土留めの丸太を押し流したと推定。一般的にシダ類は水分の多い場所を好むので、急斜面の法面でシダ類が多い場所は崩壊の恐れが高い所。植生から予知できると教わる。目的地の見晴台から望むチャートのバットレス(大岩壁面)は、岩登りのメッカになっているようだ。林道の法面には、天然記念物クラス(小泉先生の談)のチャートの滑り面(断層面)が露出。一枚岩の鏡肌に直接触れることが出来た。断層面の岩盤を構成する岩石のズレによるもので、チャートの層は、縦にひん曲がった地層で10mぐらいの幅で露出していた。手で触れると脆く剥がれる。

   自然の造形美に感動し次々と小泉先生への質問が飛び交うが、帰りの電車時刻も迫りいったんここで解散となる。・・数億年前から続く地球変遷の片りんを物語る地形を知ることで、自然がいっそう愛おしく感じた一日だった。

 

  チャート:層状チャートは放散虫の遺骸や珪質海綿の骨針が深海底に堆積して固結したもの。海洋プレートの沈み込みが続くとプレート上の堆積物が大陸側に押し付けられて付加体ができる。付加体とは、海洋プレートが海溝で大陸プレートの下に沈み込む際に、海洋プレートの上の堆積物がはぎ取られ、陸側に付加したもの。

 

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5月17日(火) 第1回「野鳥研修~高尾山で夏鳥を聞こう~」

【実施日】2022年5月17日(火)

【場所】日影沢~城山~一丁平~高尾山

【研修テーマ】夏鳥の声を聴き、楽しみながら、いろいろな鳴き方があることを理解する

【講師】吉原邦男 氏(FIT)、米山正寛 氏(FIT)

【スタッフ】小勝眞佐枝

【受講者】18名

【報告者】藪田卓哉

【研修内容】

<実施概要>

 

午前8時に高尾駅北口に集合。小仏行きバスに乗車し、日影バス停にて下車。

日影沢林道に入ると早速キビタキ、ウグイス、ヤマガラ、コジュケイ、ガビチョウなど様々な野鳥の鳴き声が聞こえて来る。

 

日影沢キャンプ場で、鳥の識別方法や双眼鏡の基本的な使い方(左右の接眼レンズの幅の合わせ方、視度調整、対象物の視界への導入法)など、講師から教えて頂く。周囲からは、キビタキ、メジロ、シジュウカラ、ヒヨドリなどの多くの鳥の鳴き声が聞かれた。

 

 

城山山頂を目指して日影沢林道を歩く中、新たに確認されたのは、虫が鳴くように「シー、シシシ」とさえずるヤブサメ、「ア―、オー、ア―、オー」と自ら名乗るように鳴くアオバト、「ピョー、ピョー」と大きな声でさえずるアオゲラ、「ツピン、ツピン」と早口でさえずるヒガラ、「ポウ、ポウ」という筒を叩くような特徴的な鳴き声のツツドリなど。

 

鳴き声が聞こえるたびに、立ち止まってじっくりと耳を傾けるとともに、それぞれの鳥を識別する上で重要な鳴き方の特徴や生態などに関する詳しい解説をして頂いた。

 

11時20頃に城山山頂に到着。昼食休憩の後、午後は各所でさえずるオオルリをはじめ、キビタキ、ヤマガラ、アオゲラ、メジロ、ヤブサメなどの声を楽しみつつ、高尾山へ向かう。

 

14時50分頃に到着したゴール地点の慰霊塔広場では、2羽(雌雄)のキジバトが頭上の枝に止まり、22番目(外来種含め)に確認された野鳥となった。

 

<鳴き声による識別法>

一つの鳥でも、鳴き方は一種類だけではなく、いろいろな鳴き方があること、また同種でも個体差や生息する地域によって鳴き方に差異があるなど、講師からは鳥の鳴き声に関する深い知見の一端を御教授頂きました。

解説して頂いた識別法について、以下にその一部をご紹介します。

 

●カラ類(シジュウカラ、ヤマガラ、ヒガラなど、カラと名の付く鳥)

カラ類はよく似たさえずり方をするが、ヒガラ→シジュウカラ→ヤマガラ→コガラの順で、さえずりのテンポがだんだん遅くなる。

 

●ヤブサメ

「シー、シシシ」と、まるで虫が鳴いているようにさえずる。かなり高い音(高周波数音)のため、人によっては聞き取るのが難しい場合も。

 

●キビタキ

「ピッコルルル、オーシツクツク」など、高い声でバリエーション豊かにさえずる。鳴き方の個体差も大きいが、同じ節回しを繰り返すことが特徴となる。コジュケイそっくりの鳴き方をすることも。

 

●オオルリ

典型的には「チーリーロージジッ」とさえずる。特に、さえずりの最後に「ジジッ」と鳴くことが識別上では決定的な特徴。ただし、必ずしもいつも典型的な鳴き方でさえずるとは限らず、一部だけだったり、一部を繰り返すなどのバリエーションがある。

 

●ガビチョウのなりすまし?

ガビチョウは、他の野鳥(例:キビタキ、ウグイス、クロツグミ、サンコウチョウ、コジュケイなど)の鳴き声を上手に真似することがあるので、間違えないように注意!

 

今回は、小雨が降ったり止んだりするなど、目視での野鳥観察には必ずしも最適といえない天候でしたが、その分、聴覚を研ぎ澄ませ多彩な野鳥の声にじっくりと耳を傾ける貴重な機会となりました。

 

鳥の識別における鳴き声の重要性について再認識させて頂いた講師のお二人と企画・運営を担当された研修部スタッフの方に感謝申し上げます。

 

 【確認された野鳥(鳴き声確認のみも含む)】

〈在来種 20種〉

キジバト、アオバト、ツツドリ、コゲラ、アオゲラ、ハシボソガラス、ハシブトガラス、

ヤマガラ、ヒガラ、シジュウカラ、ツバメ(*)、イワツバメ(*)、ヒヨドリ、ウグイス、

ヤブサメ、メジロ、キビタキ、オオルリ、スズメ(*)、イカル

(*)の3種は、集合場所の高尾駅周辺で確認

〈外来種 2種〉

コジュケイ、ガビチョウ

種の順序は、日本鳥学会「日本鳥類目録 改訂第7版」(2012)による分類体系に準拠

 

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4月29日(金・祝)「樹木観察入門」(小金井公園)

[実施日]2022年4月29日(金・祝)

[場所]都立小金井公園

[参加者]20名

[講師]大石征夫(FIT)、高橋喜蔵(FIT)

[スタッフ]小勝眞佐枝

[報告者]関口萌子

 

雨の予報のため、開始・解散時刻は1時間早めになりました。

武蔵小金井駅に集合し、小金井公園西口に向かいました。途中で講師の方より、小金井公園周辺の地理について教えていただきました。

樹木は美しい新緑の時期でした。

公園に入ってから2班に分かれて観察を開始しました。

 

  ハクウンボクを観察し、葉柄内芽の膨らみを確認しました。房状の花が咲いていましたが、講師の方が用意したハクウンボクとエゴノキの実を見せてもらい、大きさの違いやヤマガラなどの鳥が食べること、ゾウムシが産卵するので、穴が開いていることも多いことなどを教わりました。

  マルバチシャノキは蕾ができていました。チシャとはレタスのことで、講師の方が用意したチシャノキの葉も触り、感触の違いを確かめました。

  アオキでは、雌雄異株について教わり、いびつな形をして赤くなり切らない果実は、アオキミタマバエが産卵し、赤くならないことで鳥に食べられないようにしていることを教わりました。

 

(写真はハクウンボクの葉柄内芽の膨らみを探しているところ。)

 マユミは強くてしなやかな枝が多く出ており、和弓の材料になること、ニシキギは翼があることが多いことなどを教わりました。

藤棚では、フジの幹の半分ほどが朽ちて欠けていましたが、花を沢山咲かせており、樹木の幹のつくりについて思考を巡らせました。

 ウバメガシは穂状の雄花と小さな雌花が咲いており、雄花に触れると花粉がたくさん出ました。講師の方が用意した備長炭を触らせてもらうと、美しい光沢があり意外に重いと感じました。

                           (写真はニシキギ)

 サワラとヒノキの大木が隣り合っている場所では、サワラの方が葉が疎につくため、遠目でもわかることを教わりました。実は形はそっくりですが、サワラの方が二回りほど小さいことがわかりました。

 クスノキの足元は紅葉した葉が落ちており、常緑樹も落葉して葉を交換していることを学びました。カンフル剤という医薬品にも使われたり、樟脳やセルロイドの材料であることを教わりました。

 ミズキは白い花が咲いていましたが、材が白いのでコケシや祝い箸などに使われることを教わりました。

 

 ケヤキでは、欅の漢字は樹形に由来すると思われること、万葉集では槻(つき)と記されていることなど文化につながることを教わりました。また、種子をつけるための小さな葉と、専ら光合成をするための大きな葉があること、種子は小さな葉がついた枝ごと落ちて種子を遠くに飛ばせることなどを教わりました。

 ムクロジは新緑の葉を展開していましたが、去年の実が残っており、実をちぎって水に入れて振ると白く泡立ち石けんになることを確認しました。

 

(写真はケヤキの漢字の意味を示す大石講師)

 

 ユリノキはチューリップ型の花が咲いていました。花は高い所に咲いているのでよく見えませんでしたが、蜂蜜の蜜源になるそうで、鳥が落としたと思われる蕾が落ちており、手に取ることができました。

公園内にはカスミザクラやヤマザクラなど、様々な桜の木が植えられていますが、環境の変化や老齢化など、課題が多いそうです。小金井薄紅桜という固有品種は、台木の品種を変えることで活着を良くしようと工夫がなされているそうです。

この他、スモモ、ニワトコ、ミツデカエデ、開花中のポポー等々、沢山の樹木について詳しく教えていただきました。

終盤に小雨が降り始めましたが、無事終了しました。

 

[感想]

講師の方の詳しい説明により、楽しく観察しながら学ぶことができました。

この時期の樹木は新しい葉の展開がメインの時期かと思っていましたが、近づいてよく見ると目立たない花が咲いていたり、実ができていたり、落葉していたりと、それぞれの樹木ごとに異なる重要な一時であることがわかりました。

その樹木が身の周りでは何に関係しているかを実物や写真を用意したり漢字を見せて説明してくださったので、身近な文化と密接につながっていることを実感しました。

ニガキが苦いことは五感を使って学べたので、とても印象に残りました。

今回教えていただいたことをよく復習し、理解を深めていきたいと思いました。

 

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4月26日(火)「学名から迫る植物の素顔」in 小石川植物園

【実施日】2022年4月26日(火)

【場 所】小石川植物園

【実施概要】植物及び樹名板を見ながら学名の基本を学び、植物の素顔に迫る。

【受講者】14名

【講師】横山茂(FIT)

【スタッフ】高橋喜蔵

【報告者】田中和江

 

 本来の実施日は4月15日を予定していたが、天候状態から延期となった。そのためか参加者が減ったため講師を1名として、班分けせずに実施された。

 学名のつくりを細かく解説した資料、学名表記された植物園内の植物名一覧、托葉の資料と3種のプリントを見ながら、ときどき小雨の降る中での格闘となった。

 植物名一覧の植物名は全部で43種。ほぼ全部の説明をいただいた。まずは学名とは何か。世界共通の全ての生き物に付けられたラテン語表記による世界共通学術公用語である。種名は属名+種形容語(種小名)で構成される。この表し方は二名法といい、リンネによって体系化された。(リンネとはスウェーデンの植物学者で「分類学の父」と称される。)さらに命名者をその後に入れるが、必須ではない。

すべてを示すことはできないので、代表的な種と強く印象に残った種とする。

 

1.ヒゼンマユミ Euonymus chibae Makino ニシキギ科ニシキギ属

属名はニシキギ属、人名に因む種形容語では人名が最後にaで終わる場合にはeを付ける。chibaeについて、千葉さんは発見者であるが植物の研究者(学者)ではないので牧野富太郎(日本の植物学の父)に見てもらったため、牧野富太郎が命名者として発表し千葉さんの名前は種形容語として残った。ヒゼンマユミのヒゼン(肥前)は長崎県・佐賀県を示し、常緑のマユミの仲間である。

 

2.バショウ Musa basjoo Siebold ex Iinuma バショウ科バショウ属

シーボルトは学名を命名したが発表していなかったので飯沼さんが発表した。だが、園内の樹名板にはMusa basjoo Sieb. et Zucc. とある。シーボルトとツッカリーニ2人で発表したことを示していたが、現在はこの見解は認められていない。YListによるとIinumaがつく。覚えるならばこちらを推薦された。ここまでで2種。既に複雑でプリントを見比べながらの格闘が続く予感。 

略称:YListとは「植物和名—学名インデックス YList」のことで、「施設に保存されている研究用植物のデータベース」で用いられる植物名、特に、日本産植物の和名と学名に関する詳細情報の整備を目的として、2003年に米倉浩司と梶田忠を中心に作成されたものである。

 

3.イチョウ Ginkgo biloba L. イチョウ科イチョウ属

銀杏の意+2つに浅く裂けた葉の意+L.  L.はこれだけでリンネを表す。命名者の最後に付く「.(ピリオド)」は名前の以後省略の意味。

L.と一文字の略記が許されるのは二名法の創始者、リンネだけである。特別待遇であるといえる。

4.シマムロ Juniperus taxifolia Hook. et Arn. ヒノキ科ネズミサシ属 と 5.オキナワハイネズ Juniperus taxifolia Hook. et Arn. var. lutchuensis (Koidz.) Satake ヒノキ科ネズミサシ属

この2種はJuniperus taxifoliaまで同じである。etは英語のandと同意。Hook. 及びArn.の2人が命名者。オキナワハイネズのvar.は変種を表す。+変種名( )、( )内の小泉さんは種として最初に名付けた人、最後の佐竹さんが変更した。シマムロの変種を発表し、そこへ命名者の歴史的な流れが加わると学名が長くなる。 

 

 

6.ソメイヨシノ Cerasus x yedoensis (Matsum.) Masam. et S.Suzuki 'Somei-yoshino' バラ科サクラ属

 サクラ属 × 江戸産。ensisは地名に付く種形容語。×は自然交配種を表す。クロスと読み乗法記号で表す。栽培品種には ' ' がつく。もはや長すぎて読解が難解化している。読み解くには時間が必要である。

 

(写真は小石川植物園内で一番古いといわれるソメイヨシノ)

 

7.ヒメツゲ Buxus microphylla Siebold et Zucc. var. microphylla ツゲ科ツゲ属

  ここにはMicrophylla が繰り返される。ちなみにツゲは

 Buxus microphylla Siebold et Zucc. var. japonica (Müll.Arg. ex Miq.) Rehder et E.H.Wilsonである。

 ここからはさらに難関。ヒメツゲの方が先に学名が付いた。var.は変種を表すが種形容語と同じ語が繰り返される。これを自動名といい、ヒメツゲを基本種とすることを意味する。和名にした時にはツゲが先で、後でヒメツゲがあるように思うが、学名はツゲの方が後に発表されたため、多くを含む学名になっている。ヒメツゲの中でのツゲを区別するために、var.のあとに自動名が付いている。この発表の順番や学名を変更することはない。和名を絶対的なもの、まず和名ありきから学名を考えると学名が理解しがたい。学名から和名へとの見方が大切と教わった。

 

後半は、托葉、低出葉、高出葉の違いについて学んだ。托葉は、葉の基部付近の茎上または葉柄上に生ずる葉身以外の葉的な器官を一括していう。つく位置や持続性、形や大きさは分類群により多様であり、一般に托葉は葉身より早く伸長し、後続の葉を保護する役割をもち、早落性の場合が多く、冬芽の中の基部の葉では托葉しかできない場合も少なくない。托葉は葉の基部に対でつく。シュートの下部につくられる普通葉以外の葉を低出葉といい、ウリハダカエデやセイシカなどに見ることができる。シュートの上部につくられる花葉以外の特殊な葉を高出葉といい、高出葉の代表的なものである総苞の見られるボダイジュ、ハンカチノキ、托葉痕がわかるコブシモドキなど細かな部位も含め観察した。ハンカチノキの白く大きな花弁に見えたものが、葉脈のようなものがあり葉が変化したものであることを知ったが、不思議な思いだ。

葉は弱いから托葉が保護しているというよりも、葉と共に茎頂が大切だから保護されている事を知った。

短い時間でしたが、詰め込む内容の多いことに驚き、細かさに少しうんざりし、でも「分類すること」を正しく理解するための基礎を学ぶことができました。当然、全て覚えることは無理なので、資料片手に学名付樹名板のある植物に多く接する努力はしてみようと思います。学名のつくりを把握したかったので、今回の研修はそれを達成することができて感謝します。

 

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4月23日(土)「小泉現地ゼミⅠ『深大寺周辺』」

【開催日時】2022年 4月23日(土)10:00~14:45

【実施概要】武蔵野台地の南縁辺部に位置する調布市深大寺周辺の台地や谷を巡りながら、地形や地質に依存している植物

      の生態と、地形地質と共に生きてきた先人の知恵について講師の小泉先生に教えて頂いた。

【研修コース】深大寺境内と周辺→深大寺城跡→水生植物園→調布市野草園→東京パミス露頭→虎狛神社→解散                

【講師】小泉武栄 先生(東京学芸大学名誉教授)

    (2月の木の日研修で、「東京の地形の成り立ちと狭山丘陵の形成」について講義をしていただきました)

【スタッフ】FIT研修部:小勝眞佐枝、高橋喜蔵

【受講者】23名

【報告者】森正

 

・深大寺:周辺は断崖地からの多くの湧水を人々の様々な生活に活用するとともに水上信仰の場として古くから親しまれている。

  稲作には不向きだった水はけが良い地質は蕎麦栽培には適しており、蕎麦の打ちや締めに使われる良質な湧き水が豊富だったことも、蕎麦の名所を支えた。

 

  山門屋根の境内側(北)にシダが多く生える、境内の樹木の北側にノキシノブが着生するのが目立つ。その理由は陽当たりの差と共に湧水が多いことでの高湿度環境によるものと考えられる。

 


  境内には「なんじゃもんじゃ」が白い花を咲かせて見頃でした。

  当該樹(ヒトツバタゴ)は本州中部では沢沿いの湧水がある場所の周りに生育していることが多く、本樹もそのような環境にあることが分かる。

  ハナノキ、シデコブシ、シラタマホシクサ、トウカイコモウセンゴケなど15種類程が東海地方の湧水湿地でしか生育しないことが知られていることも教えて頂いた。

  関連知識として、寺周辺の崖近くにはムクが多く植生しているが、それはムクが表土が流れやすい所を好む性質のため、また、ケヤキは本来は岩盤が必要な植物であることも教えて頂いた。

 


・深大寺城跡:16世紀前半に作られた城であり、武蔵野台地の地形を上手く利用した土塁(土橋)や空堀を作り上げてい  る。曲輪と呼ばれる平地部分も広く、当時の状況を図り知ることができる。

 

・神代水生植物園:元は田んぼであった所を湿生植物が育つように管理している。ハンゲショウ、ミツガシワ、ミクリ、ミソハギ、アサザなどが葉を出していた。ハンノキは自生のもので、湿地帯で良く見かける樹木。一方、ヤマザクラは少し高い土地に生きている。

 

・青渭(あおい)神社:都立農業高等学校神代農場敷地が丁度台地と谷を包含した形を占めているが、その北側にある神社に立ち寄り、先人は神社やお寺を作る時に湧水が出やすい地形を選んでいることを再認識した。ここのケヤキも随分立派なものであった。

 

・池ノ上神社:野草園に下りる前の台の端にある神社に立ち寄る。ここにも、立派なケヤキとソロ(アカシデ)の巨樹があった。

 

・高速道路の下をくぐった直後の北斜面:カタクリの枯葉とハート形の実を何株か見ることが出来た。カタクリが好む環境を改めて認識することが出来た。

 

・調布市野草園:各自、自由に園内を散策

 

・東京パミスの露頭:パミス(Pumice)とは軽石層のこと。深大寺自然広場内にあるこの崖には、約6万6千年前の箱根山の噴火で飛来した火山灰が降り積もった地層が見える。日本各地に様々なパミスがあることが知られていて、鹿児島の姶良カルデラによるシラス台地などがある。1万年に1メートルの速さで堆積は進んでおり、その計算により火山灰層のある位置から年代が推定できる。

 

・虎狛神社:ここも断崖の端に位置しており、水と共に生活があったことが分かる。以前、東京都の天然記念物にも指定された樹齢300年高さ30メートル程のクロマツがあったが1998年に枯れ死。今は別のクロマツの巨木がある。

 

(番外)近くの野川まで足を延ばし、数10年前は2メートル程の川幅だった野川が今は10メートル程に拡幅され、深さも何倍にもなっていた。都市化による増水対策の結果であることを垣間見た。

 

所々、持ち帰り自分で調べた知識を混ぜ込んでいますが、武蔵野台地の地形をうまく利用した昔からの人の営みと植物の多様さを改めて目にして非常に貴重な体験となりました。

 

今回の企画に感謝いたします。

 

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