2024年度  野外研修


4月10日(水) 「野鳥研修~高尾山で冬鳥と夏鳥を同時に見よう」

 

【実施日】2024年4月10(水)

【場 所】日影駐車場~日影沢~日影林道~小仏城山~

     一丁平~高尾山

【実施概要】新緑が出始めた高尾山で北国や高山に移動す   る前の冬鳥と一足早く渡ってきた夏鳥を同時に観察する。また渡り途中の意外な鳥にも出会えるかもしれません。

【参加者】9名

【講 師】吉原邦男(FIT)、榎本 衛(FIT)

【スタッフ】小勝眞佐枝

【報告者】室伏憲治

 

ミソサザイのさえずりに一同聞き惚れました(日影林道)
ミソサザイのさえずりに一同聞き惚れました(日影林道)

【本文】

最初に日影駐車場で講師からこの時期の野鳥の観察の仕方を学び、日影沢は昨晩からの降雨で渓流の水音が大きいので林道山側に沿って歩き始めました。耳は常に「地獄耳」状態で野鳥の鳴き声に集中、特に「ミソサザイ」の小さな体に似合わず、渓流の音に負けない大きな声のさえずりは参加者全員がしばし足を止めて聞き惚れました。

その後は声はすれども姿は見えぬヤブサメの「シシシシ」の声や、ヒガラとヤマガラの鳴き声の違いなどを学び、また道中の春の山野草にも癒され、最後に高尾山の慰霊塔広場で事前配布の「高尾山周辺の4月の鳥リスト44種」を元に出会えた野鳥の鳥合わせを行いました。姿もしくは鳴き声を確認できた野鳥は以下の通りです。

 

出会えた野鳥(リスト+α)△は声のみ

キジバト、コゲラ、△アカゲラかアオゲラ、ハシブトガラス、ヤマガラ、ヒガラ、シジュウカラ、ヒヨドリ、ウグイス、△ヤブサメ、エナガ、メジロ、ミソサザイ、△ルリビタキ、△イカル、ホオジロ:リストから16種、番外△ソウシチョウ、△ガビチョウ、(高尾駅北口付近):イソヒヨドリ、ハクセキレイ。

 

また出会えた主な野草は、アズマイチゲ、ヤマルリソウ、マルバスミレ、エイザンスミレ、ナガバノスミレサイシン、タカオスミレ、イチリンソウ、ニリンソウ、コチャルメルソウ、フタバアオイ、ヒトリシズカ、ミミガタテンナンショウ、ヨゴレネコノメ、ツルカノコソウ、ジロボウエンゴサク、コモチシダでした。

 

*写真をクリックすると拡大表示されキャプションが出ます。

**写真:ミソサザイ(吉原邦男)、ウグイス・エナガ・メジロ・コゲラ・ヤマガラほか(榎本衛)、観察風景ほか(小勝眞佐枝)

 


4月4日(木) 「春の山野草入門研修」

 

【実施日時】2024年4月4日(木) 9:30~15:30

【実施場所】高尾山(日影→日影沢林道→郵便道(逆沢作業道)→高尾山山頂西側階段手前→山頂東側トイレ→冨士道→薬王院山門→霞台)

【実施概要】高尾山でスミレなどの春の草花の見分け方や観察の視点を学ぶ

【参加者】20名(3班に分かれて班ごとに観察活動)

【講 師】中西由美子氏・仲田晶子氏・藤田冨二氏    (三氏ともFIT会員)

【幹 事】高橋喜蔵

【報告者】伊藤克博(仲田班に参加)

 

魚の骨のような花弁を持つコチャルメルソウは、走出枝で増えるので群生する
魚の骨のような花弁を持つコチャルメルソウは、走出枝で増えるので群生する

 

【本文】

木曜日だが、高尾駅からの小仏行きの込んだバスを利用して、日影駐車場に9:30に集合。他の観察団体も多かった。開会式後、3班に分かれて、研修開始。天候も何とかもち、ラッキーであった。スミレ中心の研修ということであったが、他の野草も多く観察でき、非常に盛りだくさんで有意義な研修でした。一班の人数も多すぎず、適正でした。また、いろいろな知見を持ち合わせた会員も多く、様々な情報が聞けたのも良かった。コケやシダについてもかなり説明をして頂いたので、以下に記載した。講師の方々の説明は、写真や図などの長年蓄積した資料を使用されて、とても高度な内容も分かりやすく理解でき、ナビの素晴らしい手本でした。当日、参加者のレベルにあわせて、その場でのタイムリーな観察と説明ができる幅広い知識を普段から積み上げることの大切なことを、改めて実感できた。今後もこのような機会を利用させて頂ければ、ありがたいと思いました。 

 

【主な観察内容】

 

 <スミレ類> 

◆「スミレ」の名前の由来(墨入れと相撲とれ!)とスミレ属は23属中21属は木本

◆主に確認できた種; ①タチツボスミレ ②ナガバノスミレサイシン ③エイザンスミレ ④タカオスミレ ⑤アオイスミレ ⑥ヒナスミレ ⑦マルバスミレ ⑧ヒメスミレ ⑨アカネスミレ ⑩オクタマスミレ

◆スミレの花の構造(花弁の種類と数、距の役割とハナバチと共進化関係、雄しべの位置や形など)

◆スミレの種子の散布方法(弾け飛ぶ、エライオソームでアリを利用)

◆スミレを見分ける視点(①地上茎の有無 ②花弁の色 ③雌蕊の上部の形 ④托葉の切れ込み ⑤唇弁の距の形 ⑥側弁の形…など)

◆生育場所の違い(ヒメスミレは小石交じりの人口環境、エイザンスミレは湿った腐葉分の多い場所など) 

◆明暗による葉の変異(エイザンスミレやアオイスミレは巨大な陰葉を作る)

◆雑種に関して(冨士道での「オクタマスミレ=ヒナスミレ×エイザンスミレ」など))

 

 

<その他の野草> ◆主に確認できた種(◎…花と葉両方 ○…葉のみ);

◎キクザキイチゲ(花弁状のがく片が10~12枚、総苞なし) ○アズマイチゲ ◎ニリンソウ(葉に斑入り、白いがく5枚) △ラショウモンカズラ(芽生え) ◎マルバコンロンソウ ◎ツルカノコソウ ◎ミヤマキケマン(葉がガス臭) ◎ヤマネコノメソウ(葯は黄色) ◎ネコノメソウ(対生、毛少ない) ◎ヨゴレネコノメ(葯は暗紅色) ◎イワボタン(ヨゴレネコノメの母種、葯が黄色) ◎ヤマエンゴグサ(この時期最後の花) ◎セントウソウ ○ツルリンドウ ○オオバショウマ(葉3枚) ○イヌショウマ(葉3×3) ○キンミズヒキ △ウバユリ(芽生え) ◎ユリワサビ ○サイハイラン(裏の広い三行脈) ◎ツルカノコソウ ◎タネツケバナ ◎コチャルメルソウ ◎ミヤマカタバミ ◎ヒカゲスゲ(雄小穂と雌小穂) ○ヤブレガサ ○トウゴクシソバタツナミ ◎トウゴクサバノオ(渓流脇、白いがく5枚) ◎ミミガタテンナンショウ(雌花…青っぽい、雄花…黒っぽい) ◎ウラシマソウ ◎カントウカンアオイ ◎フタバアオイ ○オオバウマノスズクサ ◎ヤマルリソウ ◎キランソウ ○カヤラン(つぼみ) ◎エンレイソウ(タイムリーな開花、花が咲くまで10年かかる) ◎シュンラン ◎ミヤマシキミ(雄株と雌株) ◎イロハモミジ(子房の形)  

 

<コケの仲間> 

◆確認した種:・タマゴケ(目玉おやじのような蒴、雌雄同株) ・ケゼニゴケ(雌器托は円盤型、雄器托はドーナッツ型) ・トヤマシノブゴケ(シダ植物を小さくしたような体) ・ウラベニジャゴケ(キノコのように伸びた胞子体、独特の臭い) ・ハミズゴケ(蒴と周辺の青緑色の原糸体)  

 

<シダの仲間>

◆確認した種:・ベニシダ(葉裏の胞子嚢群の色) ・ハカタシダ ・コバノヒノキシダ ・クモノスシダ(葉身の先端が糸状に伸び、先端に無性芽) ・クマワラビ(葉柄や芽生えに明るい褐色の鱗片) ・オクマワラビ(葉柄や芽生えに黒褐色の鱗片) ・ジュウモンジシダ(最下の羽片が超巨大) ・リョウメンシダ ・イノデの仲間 ・オオハナワラビ(頂裂片の先が尖る、葉軸などに毛がある) ・アカハナワラビ(葉全体が赤色)

 

*写真をクリックすると拡大表示されキャプションが出ます。

**写真:高橋喜蔵ほか

 


3月2日(土) 「インストラクション入門講座」

 

【実施日】2024年3月2日(土)

【場 所】小石川植物園

【実施概要】対面で実践的に「聞き手の心に響く話し方」を

 テーマに森林インストラクターとしてのインストラクションを

 学ぶ

【参加者】22名

【講師(敬称略)】石井誠治(FIT)

【スタッフ】小勝眞佐枝、高橋喜蔵

【報告者】日比典子

 

園内で開会式
園内で開会式

【本文】

●自分で体験したことが一番伝わりますが、人から聞いた話や本で読んだ話は咀嚼して自分の言葉として話します。

●花が咲く時は花に目がいってあまり話を聞いてくれませんが、花の咲かない時はチャンスです。

実際にトクサで爪を磨いてみる       
実際にトクサで爪を磨いてみる       

●若い先生達は自然体験が不足しているので「植物がお互い助けに合って生きていて森の豊かさを作っている」ということを伝えることが苦手です。ここに森林インストラクターの出番があります。

●一般の人は珍しい木にあまり興味がありませんので誰もが知っているものが喜ばれます。難しい話をすると次回は参加してくれません。

●馴染みの名前で紹介します。サネカズラはビナンカズラともいいますがビナンカズラの方が由来を話すと印象に残り易いです。

●現物を見せると参加者の目が輝きます。研修でも講師配布のトクサで爪を磨いてヤスリとしての利用が理解できました。グッズの用意は心の安心に繋がる必殺技です。

 

印象に残った身近な話をいくつか紹介します。

■ソメイヨシノの話

小石川植物園の明治初期の写真に入口のソメイヨシノが載っている。ソメイヨシノは寿命が短く、古くなると木は枯れるが横から出てくる新しい枝で生きている。この木は100年を超える可能性がある。桜は切ってはいけないと言われるが、弘前城の桜は切ることで木を若返らせている。梅のように強く切ってはいけないということで、適度の剪定は若返りに必要。青森では弘前城にソメイヨシノ、畑にはリンゴが植えられた。リンゴの剪定技術がソメイヨシノの剪定に役立っている。

■サザンカとツバキの話

サザンカは山茶花と書くように山に自生している。原種の花は小型で白色10月~12月に咲き香りもあり虫の活動もあるため、虫媒花である。

ツバキは鳥が認識しやすい赤色で花弁がくっついて丈夫である。花期は虫が少ない冬なので、鳥媒花である。

■松竹梅の話

●松は日本に自生している。

・クロマツ:葉先が痛い、海岸性。

・アカマツ:葉先が痛くなく、山に多い。

・アイグロマツはクロマツとアカマツの雑種。

松葉には2葉、5葉、3葉もある。1葉はアメリカにあるが日本にはない。

松葉の茶色い部分は短枝で緑の葉の部分を束ねると全円になる。2葉は180℃、5葉は72℃の角度を持つ。

●竹は南方系。

・モウソウチクは江戸中期に中国から、67年に一度開花し種ができ種で再生する。

・ハチク、マダケの伝来は分かっていない。

南方熊楠が紀伊半島で竹の花(ハチク)が咲いたと牧野富太郎に同定を依頼(1903年頃)。2020年頃にハチクの開花情報が多数報告され120年に一度開花することが確認された(マダケの開花は確認されていない)。ハチクは花が咲くと種が出来ないまま地上部が枯れるが、地下茎から再生する。

●梅には実梅と花梅があり、野梅系・緋梅系・豊後系の3種の系統がある。

・野梅系は南方系で原種に近く花や葉は小さく香りが良い。白加賀は昔からの品種で多く栽培され皮と果肉は固く梅干しにするが最近は柔らかい南高梅が好まれることも多い。

・緋梅系は枝や幹の材が緋色であるのが特徴

・豊後系はアンズとウメの交配により出来たもので寒さに強く大きな実がなる。

■その他

・アカガシの森 ・カヤとイヌガヤ ・ヤマアイから藍の話 ・ハゼ ・枝垂れる木

・ウグイスカグラとヒョウタンボク ・お茶の話 ・ノシランの実 ・マンサク 

・イチョウとソテツ精子の発見 ・ヒガンバナ ・ハクビシンのビワ散布・ツツジ他多数

■最後に

情報に翻弄されずに一般の人が楽しいことに視点を合わせることが重要であるため、参加者に合わせた内容、そのための幅広い知識、話し方、親しみ易い雰囲気などが必要だと思いました。

「聞き手の心に響く話し方」とは、参加者が翌日に学校・職場・家族・友人に話したくなる内容ではないでしょうか?

講師の非常に中身の濃い研修内容の一部しか紹介できなかったことが残念です。

今後のインストラクションに役立つものであったことを感謝いたします。

 

 *写真をクリックすると拡大表示されキャプションが出ます。