2024年度  野外研修


12月14日(土)「冬芽観察入門」 

 

【日時】2024年12月14日(土)9時30分~12時

【場所】新宿御苑

【実施概要】樹木の冬芽の基礎知識や個性豊かな冬芽の

観察ポイントを教わりながら、冬越しに備える樹木の生態の理解を深めました。

【参加人数】22名

【講師】臼井治子(FIT)、高橋喜蔵(FIT)

【スタッフ】小勝眞佐枝

【報告】坂井晋平(R5 キブシ会)

 

新宿門で集合。イチョウの葉が舞い落ちていました。
新宿門で集合。イチョウの葉が舞い落ちていました。

【報告内容】 

12月らしい寒さと澄んだ青空の下、新宿御苑の新宿門から冬芽観察がスタートし、開会後に2班に分かれました(報告者は臼井氏の班)。

 

まずは冬芽の基礎知識について参考資料を使ったレクチャーを受けます。冬芽の部位の名称(頂芽、側芽、花芽、葉痕、芽鱗痕など)や、形態ごとの分類(芽鱗の有無で鱗芽/裸芽、葉柄に隠れる葉柄内芽/隠芽/半隠芽、メインの芽に対してスペアを持つ重生芽/並生芽など)を教わりました。講師は紙の資料のほか沢山の枝をサンプルとして持参されており、ハリエンジュの隠芽やキウイの半隠芽など、実物を使った説明で理解が深まります。

 

レクチャーが終わると歩き出し、以下の樹木の特徴的な冬芽を次々に観察しました。

 

観察した冬芽(☆は講師持参の枝)

毛で覆われている:ソメイヨシノ、ハクモクレン、コブシ、ホオノキ(☆)

並生芽:ヤマブキ

裸芽:ヒサカキ、サカキ、ムラサキシキブ

葉柄内芽:プラタナス、シナウリノキ

頂生側芽:アベマキ

顔に見える特徴的な葉痕:ハンカチノキ、オニグルミ(☆)

複葉の大きな葉痕:ニワウルシ(☆)、モクゲンジ(☆)、センダン(☆)

 

その他観察した樹木

カジノキ、カンザン、イヌビワ、ラクウショウ、メタセコイア、ニシキギ、ペカン、トチノキ、カンレンボク、タラノキ、ミズキ、カナメモチ

 

観察の途中、持参されたホオノキやキウイの冬芽をナイフで切り、寒さと乾燥に耐える冬芽の中に、しっかりと守られた柔らかい緑の葉を見せてもらったのが印象的でした。また、気になる樹木があれば、ぜひ冬芽のつく冬季も含めて1年の季節の変化を追い、さらには年ごとの芽や花のつき方の多寡なども見ることで、生態をより深く理解できるとアドバイスもあり、今後の参考になりました。最後には、樹木グルメの講師より、シリブカガシとスダジイの振る舞いもあり、樹木からの恵みに舌鼓を打ちながらの閉会となりました。

 

全体を通して、冬芽による樹木の越冬の生態を学ぶとともに、冬季で落葉した樹々でも充実したインストラクションができることを体験できた、非常にためになる研修となりました。

 

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**写真:小勝眞佐枝 


11月27日(水)「地衣類観察入門」 

 

【日時】2024年11月27日(水)9:30~12:30

【場所】高尾599ミュージアム敷地

【実施概要】 身近にありながら、なかなか知られていない不思議な菌類の地衣類。

樹上や石垣に目を凝らし、新しい出会いを求めて地衣類を探してみます。初心者対象の入門講座。

【参加人数】14名

【講師】藤田冨二(FIT)、中西由美子(FIT)

【スタッフ】小勝眞佐枝 

【報告】中林和雄(元樹会/令和元年)

 

599ミュージアム前のモニュメント上の地衣類を観察
599ミュージアム前のモニュメント上の地衣類を観察

【本文】

雨上がりの599ミュージアム前広場に14名の会員が集合。開会式後2班に分かれます。「物好きなみなさん、ようこそ」との講師の一言で場がなごみ、まずは基本事項のレクチャー。地衣は菌類と藻類の共生体で、菌は家を提供し、藻は光合成により栄養を提供するウイン・ウインな関係を結ぶ。菌類の多くは子嚢菌類で、藻類は主に緑藻だが、シアノバクテリアの場合もある。両者協力して地衣成分といわれる化学物質を作り有害紫外線や外敵から身を守る、など。生殖には無性と有性があり、無性繁殖のために作られる粉芽、裂芽、泡芽や、有性繁殖時に生じ、胞子を出す子器の形質は種を同定する際の大事な手がかりになる。地衣類は、葉状・痂状・樹状という3つの生育形に大別されます。

 

さていよいよ探索開始。3歩進めば、もうそこのカエデの樹皮は地衣だらけ。まずは葉状地衣の定番3種。よく見る気がするウメノキゴケの仲間。地衣体の中央部に裂芽をつけます。マツゲゴケは、地衣体の先端が掌状でその先に粉芽塊をつけています。つまんでめくってみると、なるほど睫毛のようなものが。コフキメダルチイ(コフキヂリアリナ)は縁が丸みを帯び、中心から外に向かい溶岩流のように広がっていきます。とはいえ、地衣類の年間成長は0.5~4mm程度。千年以上生きる場合もあるのですが、動物などと違って個体の定義は難しく、寿命、といって良いかは微妙です、と講師。舌をかみそうなコナアカハラムカデゴケ。これも葉状地衣。橙色の髄が覗き、ところどころにまるい子器も確認されます。ニクイボゴケの仲間、これは痂状地衣です。クレーターのような子器が多数出ています。痂状地衣はよく子器を出すそうです。再び葉状地衣のムカデコゴケ。これはパラパラ生えている感じ。乾燥していると白く見えるのですが、本日は雨後のため緑藻が目立ち緑がかって見えているとのこと。

 

広場の一角に、お地蔵さんの祠があり、その屋根の檜皮はまさに樹状地衣の楽園。棒状の子抦の上にいろいろな形の子器をつけている姿はキノコを思わせます。丁寧な説明のおかげで、コアカミゴケ、ヒメレンゲゴケ、ヒメジョウゴゴケモドキの3種の違いを感得できました。コンクリートの599モニュメントにもダイダイゴケの仲間が密生。しかもモニュメント上面と側面では別の種類です。種の同定に使われる呈色反応の実験も見せていただいた後、怪しいルーペ集団は再び探索に。ハクテンゴケ、トゲハクテンゴケ、モジゴケの仲間、チャシブゴケの仲間などを確認しました。「の仲間」とするのは微細な違いの近縁種が多く、専門家でも細かい同定は簡単ではないからとのこと。ほんの2mも離れていない木で、全然別の種が生えています。樹皮の違いだけではなく、風、案内川からの距離、日照など細かい環境の違いがこういった棲み分けの背景にあるようです。指標生物とされることもある地衣類には、人間にはわからない環境の微細な特性を感知する力があるのでは、との講師の言葉が印象的でした。

 

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**写真:小勝眞佐枝、藤田冨二


11月23日(水)「新宿御苑・樹木観察入門研修」 

 

【日時】2024年11月23日(土) 9:30~12:00

【場所】新宿御苑 

【実施概要】 新宿御苑は約58ヘクタールのスペースに「日本庭園」、「イギリス風景式庭園」、「フランス式整形庭園」を組み合わせており、樹木の数は1万本を超える。

多様性に富む 苑内の樹木を観察し、樹木の基礎とインストラクションを学ぶ。

【参加者】21名

【講師】小菅智彦(FIT会長)、高橋喜蔵(FIT)

【スタッフ】小勝眞佐枝、高橋喜蔵

【報告者】 酒井美江(R5キブシ会)

 

新宿門に集合し開会式を行った
新宿門に集合し開会式を行った

【本文】 

新宿御苑は、江戸時代に甲州街道沿いに誕生した宿場町「内藤新宿」の内藤家下屋敷跡地にあります。明治時代には「内藤新宿試験場」として農作物や園芸植物の栽培が行われ、海外から輸入した種を全国に広めました。現在、苑内には1万本を超える樹木があり、多様性に富む自然環境があります。少し肌寒さを感じるものの、秋晴れで穏やかな天気の中、落ち葉や木の実、冬芽といった秋ならではの樹木観察を行いました。また、樹木の花を当てるクイズや資料の作り方、絵本や指し棒など、インタラクションに役立つグッズについても学ぶことができました。

 

観察した樹木

タイサンボク、ヒマラヤスギ、モミジバスズカケノキ、ハンカチノキ、メタセコイア、ラクウショウ、カンレンボク、アベマキ、サワラ、ヒノキ、ハクモクレン、ハクショウ、タギョウショウ、センペルセコイア、ユリノキ、ハルニレ、ホオノキ、十月桜、子福桜、イロハモミジ、オオモミジ、シリブカガシ、サカキ、ヒサカキなど

 

午後は番外編として、希望者10名を2班に分けて温室の植物を観察しました。

全面ガラス張りの温室は2012年に環境配慮型の温室として建て替えられ、絶滅危惧種の保存や展示を行っています。ちょうど洋ラン展が開催中で個人が栽培されたランが温室の各所に展示されており、普段より人で賑わっているようでした。

仏教の三大聖樹(ムユウジュ、インドボダイジュ、サラソウジュ)やマングローブを構成する種(オヒルギ、メヒルギ)と海流散布、小笠原諸島の生態系と外来種問題などを学びました。

 

観察した植物

ムニンノボタンなど小笠原諸島の植物、オキナワウラジロガシ、アラビカコーヒー、キンシャチ、カカオノキ、ムユウジュ、インドボダイジュ、サラソウジュ、オヒルギ、メヒルギ、ヒカゲヘゴ、オオベニゴウカン、パパイヤ、タビビトノキ、ウナズキヒメフヨウ、ビカクシダ、タコノキ、サガリバナ、バナナなど

 

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**写真:石井由美子、小勝眞佐枝、福山容子

 


10月1日(火)「小泉現地ゼミⅣ~東秋留駅周辺~」 

 

【日時】2024年10月1日(火) 10:00~14:30

【場所】あきる野市 東秋留駅周辺(秋留台地から雨武主神社)

【実施概要】

 現地で以下を見ながら「なぜか」を考察する観察会だった。

 ①秋留台地の上段は水に乏しいが、下段は台地でも湧水が豊富。

  なぜ?

 ②雨武主神社の斜面にツガが自生。低標高でなぜ?

【参加者】21名

【講師】小泉武栄 東京学芸大学名誉教授

【スタッフ】小勝眞佐枝、高橋喜蔵

【報告者】 立川洋一(R4もりもり会)

 

二宮神社の段丘下にある湧水を集めた池について話す小泉先生(中央)
二宮神社の段丘下にある湧水を集めた池について話す小泉先生(中央)

【本文】 

集合場所の東秋留駅の北口には「ふれあい坂通り」という、いきなり登り坂の商店街がある。10時、そこを避け西に向けて緩い坂を登り畑地に出た。正面に大岳山、左に三頭山を見渡せる。大岳山の手前に見えるビルはあきる野市役所で、野菜畑に住宅や小さめのビルが混ざっている。ここが秋留台地の上段「秋留原面」で、西は横沢入から、東はこの後に行く二宮神社まで東西に伸びている。天水しか利用できない時代は乾燥に強い桑畑が広がっていたが、上水道の発達以降、ようやく住宅が増えてきたそうだ。講師から河岸段丘の秋留台地は、最上部から「秋留原面」、南側に「野辺面」「小川面」の3段になり、その下に沖積地があり秋川へ、そして北側は「秋留原面」から平井川に向かうと説明を受けた。今、立っている「秋留原面」は水が乏しいが「野辺面」「小川面」は台地であるのに水が豊かで水田も多く、集落ができていた。それはなぜだろう?これが本日のテーマである。

 

次は、台地の東のへりに建つ二宮神社に向かった。武蔵国の「二之宮」で大変歴史が古い。先に段丘下の神社の池(湧水)を見てから、すぐ上にある、上段の神社に登った。その後、改めて段丘を秋川に向かって下っていった。現地を歩きながら、各所で講師より秋留台地の形成過程について解説を受けた。

 

東秋留周辺には、人の営み、歴史が随所に残っていた。「野辺面」の前田耕地遺跡(なんと縄文時代草創期の形成!日本最古の漁ろう遺跡である)、八雲神社湧水、さらに「小川面」を下り沖積地を通り秋川沿いの堤防に。そこには「霞堤(かすみてい)」が築かれていた。武田信玄が治水のために考案したと言われている不連続の堤防である。縄文から古代・中世・近世の空気に触れることができ、「地形の発達」が、まさにこの地の人々の歴史を作ってきたのだなあと感慨を抱いた。

 

秋川の堤防で昼食後、東秋留橋を渡り雨武主神社(「あめむし」神社と読むそうだ)に向かった。そこから尾根上部のツガ自生地を見学に登った。200m弱の低標高でなぜツガが自生しているのか?ツガは通常は800m以上の高地に生育する樹木なので、不思議である。元々2万年前の氷河期に入ってきたツガが、礫層の尾根が豪雨の時などに樹木ごと崩れ落ちて開くので、そこに(他の植物は侵入できず)ツガが生育しているのではないかと説明を受けた。氷期、地質、悪環境に強い樹種という組み合わせで、今ここにツガが存在している。これも深い話だと思った。

 

雨武主神社の前で14時半に解散した。「なぜ?」から始まる1日が、「なるほど!」で終えることができた。

 

※  参考1:秋留台地の3段の「面」の内、2段の「面」に水が豊かなのはなぜか?

水の乏しい「秋留原面」、水の豊かな「野辺面」「小川面」、これには段丘と地下水面の関係が重要である。水を通す地層、水を通さない地層、その間に地下水面がある。すなわち、地下水面の上には段丘の「礫層」。砂や細かい礫なので隙間が多く雨水を浸透しやすい。一方、地下水面の下には固結した「礫岩層」。砂礫と粘土が混ざり硬くしまっていて水を通さない。

「秋留原面」では地下水面までの厚さ(深さ)が10mあり、これでは井戸を掘るには深すぎる。「野辺面」では2m程度だそうだ。そして、水が豊富な下の2段(「野辺面」「小川面」)には古くから人が集まった。…平安時代の「小川郷」、官制牧場「小川牧(まき)」、そして武士団への発展、豊富な水がこの地の歴史を作ってきたと言えるのではないか。

 

※  参考2:秋留台地の地形発達史…どのように台地はできたのか?

  1. 南の加住丘陵と北の草花丘陵はかつて連続した丘陵だった。秋川がそこを削って流れ、約3万年前には浅い谷が    できた。基盤は「礫岩層(五日市砂礫層)」で、氷河期には台風も来ず梅雨前線の活動が弱まって河川の運搬力が低下(☆1)し、秋川や平井川の谷間に上流から来た土砂が堆積した。その結果、河床は上昇し浅い谷は堆積が進み「秋留原面」ができた。 ☆1「河川の運搬力低下」とは、豪雨が少なく、急流で砂礫物を押し流す力が弱い状態をいう。
  2. 15,000年ほど前になると、氷期の終わりが近づき、河川の運搬力が強まり(台風や梅雨の活動が活発になり)、「秋留原面」は南北の河川に浸食され段丘化した。
  3. 1万年ほど前には、「秋留原面」は中央部を残して削られ、縁に10mほど低い「野辺面」が形成された。
  4. 浸食段丘の「野辺面」は2~4mの「礫層」の下に、水を通さない「礫岩層」があり、その間に水を通す帯水層ができて湧き出し、「野辺面」は水に恵まれた段丘になった。
  5. 浸食が続いて「小川面」や段丘崖ができ、さらに下に沖積低地が拡大した。

詳しくはFITデータベースに格納の「木の日研修(9/25)資料2」をご覧ください。

 

以上

 

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**写真:小勝眞佐枝、高橋喜蔵、立川洋一


7月20日(土)「キノコ観察入門(小宮公園)」

 

【日時】2024年7月20日(土) 9:20~11:40

【場所】都立小宮公園(八王子市暁町)

【実施概要】

 小宮公園の大部分を占めるのはクヌギ、コナラなどの

 落葉広葉樹の雑木林で、夏に雑木林に出現するキノコを

 観察します。

【参加者】15名

【講師】根田  仁さん

    (国立研究開発法人森林研究・整備機構フェロー)

【スタッフ】高橋喜蔵、小勝眞佐枝

【報告】室伏憲治

 

根田講師(最右)からキノコ全般の説明を受ける
根田講師(最右)からキノコ全般の説明を受ける

【本文】

熱中症対策を万全にして、小宮公園に集合。クヌギやコナラを中心とした雑木林で夏のキノコの観察を開始、最初にキノコは何から発生しているのか⇒キノコの栄養源は、菌根、埋木、落葉枝、枯幹であり、必ず根もとをチェックすること。またキノコの子実体の断面など顕微鏡で調べると面白い、また木材の主要成分であるセルロースやリグニンなどは高分子で分解されにくいが、キノコは高い分解能力で植物遺体(葉、材)を分解することができることを学ぶ。

その後、ひよどりが鳴く雑木林の木道を歩き、《観察出来た主なキノコ》は以下の通りです。

 

ヒイロタケ、カラカサタケ(匂いなし)、オチバタケのなかま、ベニタケ、ニガイグチ、チチタケ、ウチワタケ、ケシワウロコタケ、シロホウライタケのなかま、エゴノキタケ、ハカワラタケ、ホコリタケのなかま、アセタケのなかま、ノウタケ、コフキサルノコシカケ(頑丈)、ホウロクタケ、ベニヒダタケ、シロコカワキタケ(熱帯系のきのこ、東京では未記録)。

 

次回は新緑の頃に野鳥の声と豊かな植物を楽しみに雑木林を歩いてみたい公園でした。

 

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7月7日(日)~7月8日(月)「高山植物研修」

 

【日時】2024年7月7日(日)12:00~8日(月)14:00

【場所】尾瀬ヶ原、至仏山

【実施概要】

  尾瀬ヶ原と至仏山を歩き、高層湿原と蛇紋岩地特有の

  高山植生を観察します。高山植物観察の視点を学び、

  尾瀬の自然の素晴らしさを堪能します。

【参加人数】11名

【講師】高橋喜蔵(FIT)飯田有貴夫(FIT)

【スタッフ】幹事:小勝眞佐枝 

        アシスト:葛西宗紀、福山容子

【報告】中林和雄(元樹会/令和元年)

 

     鳩待峠から研修スタート。えいえい、おぜ-!
     鳩待峠から研修スタート。えいえい、おぜ-!

クロベは親株の根元で世代交代し実生が育つ
クロベは親株の根元で世代交代し実生が育つ

【本文】

 

研修部会久々の一泊研修。尾瀬ヶ原と至仏山で高層湿原と蛇紋岩地特有の高山植生を観察しました。鳩待峠に集合後、予定より少し早く出発。山ノ鼻に下る道はすでに花盛りですぐに足が止まります。

 

ショウキランなどの菌従属栄養植物、親世代の根株の上に次世代が育つことで根元が巨大化しているクロベなど、驚きが続きます。

 

ミズバショウの若い実はみな切り取られてありません。クマが食べたのかと思いきや、ビジターセンターの方によると、クマが近づかないように人の手で先に刈り取るのだとか。なかなか見れないという着生植物ヤシャビシャクが実をつけています。

 

 

 

     湿原で多く見られたトキソウ
     湿原で多く見られたトキソウ

やっと今日の宿、至仏山荘に到着も、休む間もなく、すぐに湿原の観察へ。夕食の17時までをギリギリ使って牛首までを往復。日本最小というハッチョウトンボが飛び回り、なかにはナガバノモウセンゴケの餌食になっている奴もいます。キンコウカやトキソウ、サワランが多く咲き、ヒツジグサもちょうど開花時間です。オゼコウホネはなぜかほとんど見られませんでした。拠水林の植生や、ケルミとシュレンケといった微地形による植生変化も教えていただきながら充実の時間でした。

 

食後も酔ってなどいられません。飯田講師によるぎっしり中身の詰まったレクチャーです。みなさんおなかいっぱいで就寝。

ハクサンイチゲとオゼソウ、イワカガミの競演
ハクサンイチゲとオゼソウ、イワカガミの競演

翌日も5時出発。まずは植物研究見本園を軽く一周してから登山開始。登り始めて間もなく、おっ、雨が。雨具をフル装備し頑張って登りますが、蒸し暑さでへろへろ。とはいえ森林限界付近からは何事もなかったかのように天気は回復、尾瀬ヶ原と燧ヶ岳を見下ろすと上空にはなんと「幻日」が。とてもついています。オオシラビソの旗竿状の見事な風衝樹形を横目に、つるつるよく滑る蛇紋岩の道に苦労しますが、次々に現れる草花に癒やされます。至仏山頂で小休止後、小至仏に向かい昼食。そこからの下り道、遅くまで雪田が残っていたエリアでは他と時間がずれたかのように、まだチングルマやショウジョウバカマが満開です。シカ柵に囲まれたオヤマ沢田代の湿原にはワタスゲが群生。ネマガリタケは、積雪中に埋もれた地際よりも高い位置に越冬芽がつき、そこから枝を複数分岐させていることなど興味深いお話も。その後は樹林に入り鳩待峠まで無事戻りました。環境の推移につれて大きく変化する植生を体感です。

 

梅雨時とは思えない運の良い天候にも恵まれ、またとない貴重な研修となりました。講師のお二人をはじめ、長期間にわたり丁寧な準備作業を進めていただいた研修部会のスタッフの方々、本当にありがとうございました。 

 

 【観察できた植物(ほぼコース上で出現順)】

 

〇鳩待峠~山ノ鼻

・草本など

シロバナエンレイソウ、モミジカラマツ、ハナニガナ、シロキクラゲ、ゴゼンタチバナ、ショウキラン、ヤグルマソウ、ヤマブキショウマ、ハリブキ、カニコウモリ、オオバノヨツバムグラ、ギンリョウソウ、トチバニンジン、オオナルコユリ、ツクバネソウ、トリアシショウマ、ヨブスマソウ、ズダヤクシュ、ミズバショウ、オニシモツケ、オオレイジンソウ、ナツトウダイ、ミヤマカラマツ、ケナツノタムラソウ、ヤマオダマキ、クロバナヒキオコシ、コケイラン、サンリンソウ、

・木本

コシアブラ、ツルアジサイ、イワナシ、テツカエデ、オガラバナ、ウリハダカエデ、ミネカエデ、アカミノイヌツゲ、サワグルミ、ミズキ、オオバノクロモジ、クロヅル、ヒロハツリバナ、ヤシャビシャク、シウリザクラ、ツルマサキ、ミヤママタタビ、ヒロハヘビノボラズ、ウワミズザクラ

 

〇山ノ鼻~牛首

・草本など

ノアザミ、サギスゲ、オオカサスゲ、ミズチドリ、ヒオウギアヤメ、アブラガヤ、トキソウ、カキツバタ、ギョウジャニンニク、ナガバノモウセンゴケ、サワラン、キンコウカ、ミツガシワ、ヒツジグサ、ニッコウキスゲ

・木本

シナノキ、ヤチヤナギ、レンゲツツジ、ツルコケモモ、ウラジロヨウラク、ヒメシャクナゲ、ノリウツギ

 

〇山ノ鼻 植物研究見本園

・草本など

オニノヤガラ、アブラガヤ、ヤチカワズスゲ、ミタケスゲ、オオカサスゲ、ゴウソ、ネバリノギラン、ヤマドリゼンマイ、ニッコウキスゲ、ホロムイソウ、ヤチスゲ、タテヤマリンドウ、

・木本

コブニレ、シナノキ

 

〇山ノ鼻~至仏山~小至仏~オヤマ沢田代~鳩待峠

・草本など

ミヤマダイモンジソウ、ミネウスユキソウ、ネバリノギラン、ナツトウダイ、ハクサンチドリ、ホソバヒナウスユキソウ、モウセンゴケ、シブツアサツキ、ヨツバシオガマ、ジョウエツキバナノコマノツメ、タカネシュロソウ、ホソバコゴメグサ、タカネシオガマ、イワイチョウ、タカネナデシコ、ムシトリスミレ、ジョウシュウアズマギク、ホソバツメクサ、オゼソウ、コイワカガミ、ショウジョウバカマ、ハクサンコザクラ、キジムシロ、エゾウサギギク、イワハタザオ、ゴゼンタチバナ、ミヤマウイキョウ、ハクサンイチゲ、ツマトリソウ、シナノキンバイ、タテヤマリンドウ、ミツバオウレン、ワタスゲ、ズダヤクシュ、シロバナノヘビイチゴ、ゴヨウイチゴ

・木本

アズマシャクナゲ、ミヤマシグレ、タムシバ、オオバクロモジ、アカミノイヌツゲ、ミヤマナラ、キタゴヨウ、コメツガ、ウラジロヨウラク、イワシモツケ、コケモモ、コメツツジ、チングルマ、タカネバラ、ハクサンシャクナゲ、イブキジャコウソウ、オオシラビソ、ウラジロハナヒリノキ、ミヤマネズ、ミヤマビャクシン、アカモノ、イワナシ、ヒメモチ、ハイマツ、ヒメシャクナゲ、オガラバナ、クマイチゴ

 

以上

 

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**写真:葛西宗紀、古谷一祐、福山容子


6月15日(土)「昆虫観察入門~あきる野市横沢入」

 

【日時】2024年6月15日(土) 10:00~14:00

【場所】横沢入里山保全地域(東京都あきる野市)

【実施概要】

  里山に生息する昆虫を観察します。水生昆虫やトン類、

  チョウ類、また地表歩行性昆虫などの生態と、環境との

  関係性を考察し、今後のインストラクションに生かせる

  よう学びます。

【参加人数】15名

【講師】杉村健一氏(西多摩昆虫同好会)

【スタッフ】小勝眞佐枝

【報告・写真】榎本衛(ニレの会/令和2年)

 

 

標本と比べてヤゴの同定をする杉村講師(右手前)と参加者
標本と比べてヤゴの同定をする杉村講師(右手前)と参加者

【本文】

私が学んだことを順に紹介します。

 

出発前ミーティングで講師から、虫を捕獲するトラップとしてベイトトラップとバナナトラップの説明を受ける。ベイトトラップは地上を歩き回るオサムシなどを落とし穴のしくみで採集するもので、餌を入れたコップを掘った穴に入れて虫を誘引する。餌はさなぎ粉の「九ちゃん」を使う。バナナトラップはバナナに泡盛をかけ、ストッキングに入れて吊るしておくもので、オオムラサキやカブトムシを誘引する(注:ベイトトラップのベイトとはbaitのことで、釣りやわなの餌、おびき寄せるものという意味)。大人の虫の専門家でも自分の観察場所をもった子どもにはかなわないそうだ。

 

ハラビロトンボは腹部が短めで雄と雌で体色が異なり、雄は黒っぽい。草堂ノ入に入ったところで歩道脇の地面に穴を掘り、ベイトトラップを仕掛けておく。タチヤナギなどの若い木は樹液がよく出て虫が集まりやすい。田んぼの周りにあった薪炭林のコナラやクヌギは、1960年頃にエネルギー革命で伐採しなくなり、60年を過ぎていて樹液があまり出ない。イボタノキはウラゴマダラシジミの幼虫の食草である。

 

クワガタムシを探す方法は、耳を澄まして木を揺するだけ。クワガタが落ちてくる音を聞き逃さないこと。ヒカゲチョウがいると樹液が出ている目安になる。コミスジはクズの葉を食べる。

 

クロイトトンボのヤゴの抜け殻
クロイトトンボのヤゴの抜け殻

下ノ川の小池にはシオカラトンボとオオシオカラトンボが飛んでいた。「とんぼの めがねは みずいろめがね …」の童謡に歌われているのはシオカラトンボである、つまり、シオカラトンボの眼は青色だが、オオシオカラトンボは茶色である。翅の付け根が茶色いのがオオシオカラトンボでシオカラトンボはお尻の先端が黒い。両種ともに雌はムギワラ色である。貝類のマルタニシは絶滅危惧種である。クロイトトンボのヤゴの抜け殻と羽化した直後のオオアオイトトンボを観察する。

 

イタドリの葉が巻かれてぶら下がっていたのはドロハマキチョッキリの仕業で、なかに卵が産み付けられている。池にいるオタマジャクシはシュレーゲルアオガエルである。池に垂れ下がった枝葉に付いた白いものはモリアオガエルの卵塊だが、時間が経って小さくなっている。コオニヤンマはヤンマではなくサナエトンボの仲間で左右の複眼が離れているがオニヤンマは接している。

 

逆さまに浮いて餌を待つマツモムシ
逆さまに浮いて餌を待つマツモムシ

次に案内されたのはコンテナ水槽である。アメリカザリガニによる食害からトンボの幼虫などの水生昆虫を守り、保護・増殖を図るため、水色の四角いコンテナに水が張ってある。トンボは水面の反射光で水のありかを見つけている。水面をよく見ると虫がお腹を上にして浮いている。水に落ちて死んでいると思ったらスイスイ泳ぎ始めた。マツモムシというカメムシの仲間で水面に落ちた虫などを捕まえやすいように、ずっと逆さまの生活をしている。後ろ足が異常に長く、手でつかむと口吻で刺されることがあり注意が必要だ。水面でじっとしていたクモはスジブトハシリグモで、その名の通り、茶色く太い筋が目立つクモだ。

 

参加者の方が見つけた体長15mmほどの大きなてんとう虫はハラグロオオテントウという。工事現場で見かけるヘルメットのようだ。ハラビロトンボの雌がお腹を水面に打ち付けて産卵している。小さいときからよく見る産卵方法だが、これを打水産卵(だすいさんらん)ということを知った。ここでお昼となり、管理棟に戻って弁当をいただく。

 

トンボの成虫とヤゴの標本を見ながら講師から説明を受ける。昆虫の標本のつくり方は、まず内臓を抜いて、竹ひごで芯を入れて、20分ほどアセトンに浸け、三角紙にはさんで翅を整えてやればよい。または冷凍庫に入れておけば半年ほどでフリーズドライ状態になる。ミイラをつくる感じである。水路に網を入れて生きものを捕える「ガサガサ」の極意は、網を必ず上流に向けて行うこと。泥の中にいるヤゴには毛があって泥が付着しているが、流れのあるところにいるヤゴには毛がなく泥が付いていない。

 

コシボソヤンマの成虫の腰はくびれていてヤゴは草につかまり、捕まえるとえび反りになって死んだふりをする。クモのように脚を広げたヤゴはコヤマトンボ。小さなえびはカワリヌマエビ属で外来種。ガサガサで捕った生きものは、観察が終わったら水路に戻しておく。

 

富田ノ山は約20年前に皆伐して萌芽更新を図り、いまは低木が育ってきている。若い木は樹液が出て虫が集まる。コナラにあけられたシロスジカミキリの産卵痕を観察する。幼虫が排出したフラスも見られた。さいごにカヤネズミの巣を観察して管理棟に戻る。

 

閉会式では講師から、虫は種類がとても多いので飽きることがないと聴き、そのあと参加者から感想をいただいて終了となった。

虫の世界は奥深いことを学びました。講師ならびにスタッフの皆さん、ありがとうございました。

 

【観察種】

(昆虫)ハラビロトンボ、テングチョウ、シオカラトンボ、オオシオカラトンボ、クビキリギス、クロイトトンボ(ヤゴの抜け殻)、オオアオイトトンボ、クロスジギンヤンマ、ドロハマキチョッキリ(揺籃)、ゲンジボタル、コオニヤンマ、マツモムシ、ハラグロオオテントウ、ハグロトンボ(ヤゴ)、ヤマサナエ(ヤゴ)、コシボソヤンマ(ヤゴ)、ミルンヤンマ(ヤゴ)、コヤマトンボ(ヤゴ)、オジロサナエ(ヤゴ)

(クモ)コモリグモsp、スジブトハシリグモ

(カエル)シュレーゲルアオガエル(おたまじゃくし)、モリアオガエル(卵塊)、ニホンアカガエル

(魚類)ホトケドジョウ、キタドジョウ

(甲殻類)サワガニ、カワリヌマエビsp

(貝類)マルタニシ、カワニナ

 

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5月21日(火)「学名から迫る植物の素顔」

 

【開催場所】小石川植物園

【参加者】17名

【講師(敬称略)】横山茂(FIT)、高橋喜蔵(FIT)

【スタッフ】高橋喜蔵 福山容子

【写 真】福山容子

【報告者】高田裕司(みきの会/令和3年)

 

ムラサキオンツツジの前で解説を聞く参加者(横山班)
ムラサキオンツツジの前で解説を聞く参加者(横山班)

【本文】

快晴、気温25℃〜27℃と初夏の陽射しが眩しい中での開催。

実施の概要、興味深かった点、学名の具体例そして参考になるものを報告します。

 

◯実施の概要

学名とは「全ての生き物に付けられたラテン語表記による世界共通の学術公用語」。そして、今日の目標は、「食わず嫌いの方が多い学名について、親しみを持ってもらうこと。学名がわかると分類が整理できる」で講座がスタートしました。

参加者を2つのグループに分け、各講師が説明を担当して行きます。

小石川植物園にある36の樹木について、樹名板に記載されている学名を配布された資料をもとに順次講師が説明し、参加者と質疑応答をするというスタイルで進められました。

最初はよくわからない学名の構造が、具体例と共に講師に記載ルールの説明を受けることで、徐々に見当がついていくようになりました。

 

◯興味深かった点

 以下報告者が興味深かった点です。

  • 現在使われていないラテン語を学名で使うメリットは、変化しないということ。
  • 学名は科名が変更になっても変わらない。
  • 読み方はローマ字読みで問題ない。基本的には通じればよい。
  • 学名は、種名(属名+種形容語(種小名)がセット=二名法)で構成されている。命名者名がその後に記載されるが、一般的使用の際は省略してもかまわない。
  • 種の下の分類として、基本種との違いが大きい順に、亜種(ssp.又はsubsp.)、変種(var.)、品種(f.)として記載される場合がある。
  • 変更等があった場合には、最初に命名した人と最後に命名した人の両方が記載される。

 

◯学名の具体例

 講師から説明を受けたヤマザクラとヤドリギについて紹介します。

 

【ヤマザクラ Cerasus jamasakura (Siebold ex Koidz.) H.Ohba var. jamasakura】バラ科サクラ属

Cerasusはラテン語で「桜」を意味する。種形容語と種以下の用語が同じである(=自動名)ので、ヤマザクラは、基本種(=その種内で最初に命名されたもの)であり、最初の命名者はシーボルトで、記載をつけて発表したのは小泉源一氏(日本の植物学者)である。そして、大場秀章氏(日本の植物学者)が、属名をPrunusから Cerasusへ変更した。後日、種内で変種ツクシヤマザクラvar. chikusiensis が記載されたので、自動名であるvar. jamasakuraが付けられた。

 

【ヤドリギ Viscum album L. subsp. coloratum Kom.】ビャクダン科ヤドリギ属

Viscumはラテン語で「粘性のある」という意味。albumはラテン語で「白い」という意味。つまりここまではセイヨウヤドリギのことで、L.(=リンネ:スウェーデンの植物学者で学名の二名法を提唱した方)が命名した。それの亜種で、coloratum(ラテン語で「色のついた」を意味する)とKom.(=コマロフ:ロシアの植物学者)が命名した。

◯その他参考になるもの

  • 牧野植物図鑑の末尾に学名に使われているラテン語の解説が載っていますのでたいへん参考になります。
  • 学名検索で使用しやすいのは、「YList 植物和名-学名インデックス」              http://ylist.info

全く学名について食わず嫌い状態でした報告者は、学名をみることで、近いものや遠いもの、命名者(最初と最後)が書いてあることを知り、まずはラテン語の意味を知りたいと思っています。

 

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4月27日(土)「季節の花観察研修」

 

【日  時】2024年4月27日(土)9:00〜11:45

【場  所】国営昭和記念公園 

      みどりの文化ゾーン(ゆめひろば)

【実施概要】初夏の道端などでふつうにみられる植物の花や葉の特徴、                   生育環境などを観察し、身近な植物への興味を深める。

【参加人数】20名 

【講  師】高橋喜蔵(FIT) 

【スタッフ】小勝眞佐枝

【報  告】加古明子

 

トチノキの豪華な複総状花序。
トチノキの豪華な複総状花序。

【本文】

昨春に予定されていた観察会ですが、雨のため中止に。今春はそのリベンジで計画されましたが、天気予報は数日前からずっと雨マーク。今年もダメかと諦めかけていたところ、前日になって雨マークは消え開催に漕ぎ着けました。

事前に配布された資料は、「昭和記念公園ゆめひろばで見られた植物」60種のリストと、似た植物のイラストによる見分け方A41枚の2点です。

場所は昭和記念公園の東端になる「みどりの文化ゾーン」(ゆめひろば)。入園料は無料、しかもGW初日だというのに来園者はまばらで、ほとんど貸切状態という穴場でした。

 

観察は20名1班体制で「あけぼの口」から奥に進みながら進められました。観察対象は草本、木本の「季節の花」ですが、花に限らず目につくもの全て、といっていいくらい広範囲に及びました。クヌギの今年受粉した花のあとと、昨年受粉した未熟の実を探す、ヘラオオバコの雌しべと雄しべをルーペで探す、サクラの花外蜜腺を探す、ユキヤナギの種をルーペで観察する、ドウダンツツジの花の形から虫との関係を考える、ナワシログミの葉裏の鱗片をルーペで観察する等々。

 

プラタナスグンバイ(越冬した個体か?若い葉の裏で子孫を残すのだろう)
プラタナスグンバイ(越冬した個体か?若い葉の裏で子孫を残すのだろう)

途中立派なトイレがあってここで5分休憩。トイレは大きく綺麗でしかもガラガラ。その前にトチノキがあって目の前で開花が見られました。花はほとんどが雄花で「雌花を探してください」との講師の言葉で探したのですが見つからず。しかしその木のなんと伸びやかに成長していること。おそらく無剪定の本来の樹形。こういう木を見られるのがここの公園のいいところです。

となりのアメリカスズカケノキも同様で、目の前に枝が伸び、講師が葉をひっくり返せばお目当ての成虫越冬するプラタナスグンバイが、相撲の軍配に似た白い羽を広げていました。木に害を与えてしまう害虫ですが、観察となるとその形の妙やレースのような羽に見入ってしまいます。

 

 

さて「出る、出る、出ない、出る、出る、出ない」これはなんのことでしょう? 個人的にはこれがいちばん面白かった。なにかというと、ナツヅタの吸盤の出方なんです。つるから吸盤を出して樹皮などに張り付くことで自らを支えるつる植物ですが、その吸盤を2個続けて出したら次は休み、また2個出したら次は休み。間違えることなく規則正しく吸盤を出しているんです。「全部出さなくても支えられる」という省エネ作戦でしょうか。う〜ん、賢い。ヤブガラシも同様の規則性で巻きひげを出すんです。そういうのを知るとなぜか嬉しくなってしまいます。そこが「見る」と「観る」の違いで、「観る」ほうは自分ではなかなか気付くことができないのでそこが観察会に期待すること、お楽しみです。

 

ツタの吸盤       
ツタの吸盤       

あっという間に終了時間となり、感想を3名の方に伝えていただき解散となりました。

ご準備くださった講師ならびに関係者のみなさま、充実した観察会を実施いただきありがとうございました。

 

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**写真:高橋喜蔵、小勝眞佐枝

 


4月10日(水) 「野鳥研修~高尾山で冬鳥と夏鳥を同時に見よう」

 

【実施日】2024年4月10(水)

【場 所】日影駐車場~日影沢~日影林道~小仏城山~

     一丁平~高尾山

【実施概要】新緑が出始めた高尾山で北国や高山に移動す   る前の冬鳥と一足早く渡ってきた夏鳥を同時に観察する。また渡り途中の意外な鳥にも出会えるかもしれません。

【参加者】9名

【講 師】吉原邦男(FIT)、榎本 衛(FIT)

【スタッフ】小勝眞佐枝

【報告者】室伏憲治

 

ミソサザイのさえずりに一同聞き惚れました(日影林道)
ミソサザイのさえずりに一同聞き惚れました(日影林道)

【本文】

最初に日影駐車場で講師からこの時期の野鳥の観察の仕方を学び、日影沢は昨晩からの降雨で渓流の水音が大きいので林道山側に沿って歩き始めました。耳は常に「地獄耳」状態で野鳥の鳴き声に集中、特に「ミソサザイ」の小さな体に似合わず、渓流の音に負けない大きな声のさえずりは参加者全員がしばし足を止めて聞き惚れました。

その後は声はすれども姿は見えぬヤブサメの「シシシシ」の声や、ヒガラとヤマガラの鳴き声の違いなどを学び、また道中の春の山野草にも癒され、最後に高尾山の慰霊塔広場で事前配布の「高尾山周辺の4月の鳥リスト44種」を元に出会えた野鳥の鳥合わせを行いました。姿もしくは鳴き声を確認できた野鳥は以下の通りです。

 

出会えた野鳥(リスト+α)△は声のみ

キジバト、コゲラ、△アカゲラかアオゲラ、ハシブトガラス、ヤマガラ、ヒガラ、シジュウカラ、ヒヨドリ、ウグイス、△ヤブサメ、エナガ、メジロ、ミソサザイ、△ルリビタキ、△イカル、ホオジロ:リストから16種、番外△ソウシチョウ、△ガビチョウ、(高尾駅北口付近):イソヒヨドリ、ハクセキレイ。

 

また出会えた主な野草は、アズマイチゲ、ヤマルリソウ、マルバスミレ、エイザンスミレ、ナガバノスミレサイシン、タカオスミレ、イチリンソウ、ニリンソウ、コチャルメルソウ、フタバアオイ、ヒトリシズカ、ミミガタテンナンショウ、ヨゴレネコノメ、ツルカノコソウ、ジロボウエンゴサク、コモチシダでした。

 

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**写真:ミソサザイ(吉原邦男)、ウグイス・エナガ・メジロ・コゲラ・ヤマガラほか(榎本衛)、観察風景ほか(小勝眞佐枝)

 


4月4日(木) 「春の山野草入門研修」

 

【実施日時】2024年4月4日(木) 9:30~15:30

【実施場所】高尾山(日影→日影沢林道→郵便道(逆沢作業道)→高尾山山頂西側階段手前→山頂東側トイレ→冨士道→薬王院山門→霞台)

【実施概要】高尾山でスミレなどの春の草花の見分け方や観察の視点を学ぶ

【参加者】20名(3班に分かれて班ごとに観察活動)

【講 師】中西由美子氏・仲田晶子氏・藤田冨二氏    (三氏ともFIT会員)

【幹 事】高橋喜蔵

【報告者】伊藤克博(仲田班に参加)

 

魚の骨のような花弁を持つコチャルメルソウは、走出枝で増えるので群生する
魚の骨のような花弁を持つコチャルメルソウは、走出枝で増えるので群生する

 

【本文】

木曜日だが、高尾駅からの小仏行きの込んだバスを利用して、日影駐車場に9:30に集合。他の観察団体も多かった。開会式後、3班に分かれて、研修開始。天候も何とかもち、ラッキーであった。スミレ中心の研修ということであったが、他の野草も多く観察でき、非常に盛りだくさんで有意義な研修でした。一班の人数も多すぎず、適正でした。また、いろいろな知見を持ち合わせた会員も多く、様々な情報が聞けたのも良かった。コケやシダについてもかなり説明をして頂いたので、以下に記載した。講師の方々の説明は、写真や図などの長年蓄積した資料を使用されて、とても高度な内容も分かりやすく理解でき、ナビの素晴らしい手本でした。当日、参加者のレベルにあわせて、その場でのタイムリーな観察と説明ができる幅広い知識を普段から積み上げることの大切なことを、改めて実感できた。今後もこのような機会を利用させて頂ければ、ありがたいと思いました。 

 

【主な観察内容】

 

 <スミレ類> 

◆「スミレ」の名前の由来(墨入れと相撲とれ!)とスミレ属は23属中21属は木本

◆主に確認できた種; ①タチツボスミレ ②ナガバノスミレサイシン ③エイザンスミレ ④タカオスミレ ⑤アオイスミレ ⑥ヒナスミレ ⑦マルバスミレ ⑧ヒメスミレ ⑨アカネスミレ ⑩オクタマスミレ

◆スミレの花の構造(花弁の種類と数、距の役割とハナバチと共進化関係、雄しべの位置や形など)

◆スミレの種子の散布方法(弾け飛ぶ、エライオソームでアリを利用)

◆スミレを見分ける視点(①地上茎の有無 ②花弁の色 ③雌蕊の上部の形 ④托葉の切れ込み ⑤唇弁の距の形 ⑥側弁の形…など)

◆生育場所の違い(ヒメスミレは小石交じりの人口環境、エイザンスミレは湿った腐葉分の多い場所など) 

◆明暗による葉の変異(エイザンスミレやアオイスミレは巨大な陰葉を作る)

◆雑種に関して(冨士道での「オクタマスミレ=ヒナスミレ×エイザンスミレ」など))

 

 

<その他の野草> ◆主に確認できた種(◎…花と葉両方 ○…葉のみ);

◎キクザキイチゲ(花弁状のがく片が10~12枚、総苞なし) ○アズマイチゲ ◎ニリンソウ(葉に斑入り、白いがく5枚) △ラショウモンカズラ(芽生え) ◎マルバコンロンソウ ◎ツルカノコソウ ◎ミヤマキケマン(葉がガス臭) ◎ヤマネコノメソウ(葯は黄色) ◎ネコノメソウ(対生、毛少ない) ◎ヨゴレネコノメ(葯は暗紅色) ◎イワボタン(ヨゴレネコノメの母種、葯が黄色) ◎ヤマエンゴグサ(この時期最後の花) ◎セントウソウ ○ツルリンドウ ○オオバショウマ(葉3枚) ○イヌショウマ(葉3×3) ○キンミズヒキ △ウバユリ(芽生え) ◎ユリワサビ ○サイハイラン(裏の広い三行脈) ◎ツルカノコソウ ◎タネツケバナ ◎コチャルメルソウ ◎ミヤマカタバミ ◎ヒカゲスゲ(雄小穂と雌小穂) ○ヤブレガサ ○トウゴクシソバタツナミ ◎トウゴクサバノオ(渓流脇、白いがく5枚) ◎ミミガタテンナンショウ(雌花…青っぽい、雄花…黒っぽい) ◎ウラシマソウ ◎カントウカンアオイ ◎フタバアオイ ○オオバウマノスズクサ ◎ヤマルリソウ ◎キランソウ ○カヤラン(つぼみ) ◎エンレイソウ(タイムリーな開花、花が咲くまで10年かかる) ◎シュンラン ◎ミヤマシキミ(雄株と雌株) ◎イロハモミジ(子房の形)  

 

<コケの仲間> 

◆確認した種:・タマゴケ(目玉おやじのような蒴、雌雄同株) ・ケゼニゴケ(雌器托は円盤型、雄器托はドーナッツ型) ・トヤマシノブゴケ(シダ植物を小さくしたような体) ・ウラベニジャゴケ(キノコのように伸びた胞子体、独特の臭い) ・ハミズゴケ(蒴と周辺の青緑色の原糸体)  

 

<シダの仲間>

◆確認した種:・ベニシダ(葉裏の胞子嚢群の色) ・ハカタシダ ・コバノヒノキシダ ・クモノスシダ(葉身の先端が糸状に伸び、先端に無性芽) ・クマワラビ(葉柄や芽生えに明るい褐色の鱗片) ・オクマワラビ(葉柄や芽生えに黒褐色の鱗片) ・ジュウモンジシダ(最下の羽片が超巨大) ・リョウメンシダ ・イノデの仲間 ・オオハナワラビ(頂裂片の先が尖る、葉軸などに毛がある) ・アカハナワラビ(葉全体が赤色)

 

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**写真:高橋喜蔵ほか

 


3月2日(土) 「インストラクション入門講座」

 

【実施日】2024年3月2日(土)

【場 所】小石川植物園

【実施概要】対面で実践的に「聞き手の心に響く話し方」を

 テーマに森林インストラクターとしてのインストラクションを

 学ぶ

【参加者】22名

【講師(敬称略)】石井誠治(FIT)

【スタッフ】小勝眞佐枝、高橋喜蔵

【報告者】日比典子

 

園内で開会式
園内で開会式

【本文】

●自分で体験したことが一番伝わりますが、人から聞いた話や本で読んだ話は咀嚼して自分の言葉として話します。

●花が咲く時は花に目がいってあまり話を聞いてくれませんが、花の咲かない時はチャンスです。

実際にトクサで爪を磨いてみる       
実際にトクサで爪を磨いてみる       

●若い先生達は自然体験が不足しているので「植物がお互い助けに合って生きていて森の豊かさを作っている」ということを伝えることが苦手です。ここに森林インストラクターの出番があります。

●一般の人は珍しい木にあまり興味がありませんので誰もが知っているものが喜ばれます。難しい話をすると次回は参加してくれません。

●馴染みの名前で紹介します。サネカズラはビナンカズラともいいますがビナンカズラの方が由来を話すと印象に残り易いです。

●現物を見せると参加者の目が輝きます。研修でも講師配布のトクサで爪を磨いてヤスリとしての利用が理解できました。グッズの用意は心の安心に繋がる必殺技です。

 

印象に残った身近な話をいくつか紹介します。

■ソメイヨシノの話

小石川植物園の明治初期の写真に入口のソメイヨシノが載っている。ソメイヨシノは寿命が短く、古くなると木は枯れるが横から出てくる新しい枝で生きている。この木は100年を超える可能性がある。桜は切ってはいけないと言われるが、弘前城の桜は切ることで木を若返らせている。梅のように強く切ってはいけないということで、適度の剪定は若返りに必要。青森では弘前城にソメイヨシノ、畑にはリンゴが植えられた。リンゴの剪定技術がソメイヨシノの剪定に役立っている。

■サザンカとツバキの話

サザンカは山茶花と書くように山に自生している。原種の花は小型で白色10月~12月に咲き香りもあり虫の活動もあるため、虫媒花である。

ツバキは鳥が認識しやすい赤色で花弁がくっついて丈夫である。花期は虫が少ない冬なので、鳥媒花である。

■松竹梅の話

●松は日本に自生している。

・クロマツ:葉先が痛い、海岸性。

・アカマツ:葉先が痛くなく、山に多い。

・アイグロマツはクロマツとアカマツの雑種。

松葉には2葉、5葉、3葉もある。1葉はアメリカにあるが日本にはない。

松葉の茶色い部分は短枝で緑の葉の部分を束ねると全円になる。2葉は180℃、5葉は72℃の角度を持つ。

●竹は南方系。

・モウソウチクは江戸中期に中国から、67年に一度開花し種ができ種で再生する。

・ハチク、マダケの伝来は分かっていない。

南方熊楠が紀伊半島で竹の花(ハチク)が咲いたと牧野富太郎に同定を依頼(1903年頃)。2020年頃にハチクの開花情報が多数報告され120年に一度開花することが確認された(マダケの開花は確認されていない)。ハチクは花が咲くと種が出来ないまま地上部が枯れるが、地下茎から再生する。

●梅には実梅と花梅があり、野梅系・緋梅系・豊後系の3種の系統がある。

・野梅系は南方系で原種に近く花や葉は小さく香りが良い。白加賀は昔からの品種で多く栽培され皮と果肉は固く梅干しにするが最近は柔らかい南高梅が好まれることも多い。

・緋梅系は枝や幹の材が緋色であるのが特徴

・豊後系はアンズとウメの交配により出来たもので寒さに強く大きな実がなる。

■その他

・アカガシの森 ・カヤとイヌガヤ ・ヤマアイから藍の話 ・ハゼ ・枝垂れる木

・ウグイスカグラとヒョウタンボク ・お茶の話 ・ノシランの実 ・マンサク 

・イチョウとソテツ精子の発見 ・ヒガンバナ ・ハクビシンのビワ散布・ツツジ他多数

■最後に

情報に翻弄されずに一般の人が楽しいことに視点を合わせることが重要であるため、参加者に合わせた内容、そのための幅広い知識、話し方、親しみ易い雰囲気などが必要だと思いました。

「聞き手の心に響く話し方」とは、参加者が翌日に学校・職場・家族・友人に話したくなる内容ではないでしょうか?

講師の非常に中身の濃い研修内容の一部しか紹介できなかったことが残念です。

今後のインストラクションに役立つものであったことを感謝いたします。

 

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